『煙』

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『煙』

 「期間とか、どんな感じになるんすか?それに曲のジャンルとかもわかんないんで…」 「いつでもいいよ、縋さんの作詞に任せるよ」 「えっ?」 「いつまでも縋さんの歌詞待ってますから大丈夫ですよー」  結局は、2人の期待を裏切るわけにはいかなくて、自分でもこんなチャンスを逃したくもなく。今ある状況に任されることにした。とは言え、期間も曲のジャンルも音程も歌詞も、本来同時進行で作り上げていくにあたり完成させれる。しかし、ジン曰く作曲はジン本人が担当し、作詞を俺が担当する。 そして一つ、意味のわからない点があった。条件とでもいうのだろう。 それは、お互いの役割だけを行うこと、そして関わらないこと。 どんな音程やリズムにするのか、どんな事を歌詞に書き込んだのか、それを一切に明かさないということだ。  簡単に言って仕舞えば、作詞は作詞、作曲は作曲と言うことだ。 「…」 どういうことだろうか。  一度ナイトオンリーのスタジオから抜け出して、タバコを吸いにいくと告げた後に、近くのコンビニに寄って缶コーヒー買った。  朝から水一つ口につけていない事を思い出した衝動ではない。 それは、今日からの俺自身が、もうあのスタジオには必要ない故に、気を遣ったからだ。  作曲に携わらない以上、歌詞に専念するための行為だが、よくも考えてみればこれからしていく事は詩人みたいなものなのだろう。  コラボ曲という事で、仕事などが忙しくなるようにも思えたが、作曲を行わないこともあってなんだか気楽には感じられた。 もし仮に作詞作曲に情をかけた人間なら、今回の一件は無くなっていたのだろうか。 俺がそこまで拘っている人間じゃなくて良かったと思えた。  カチャッとコーヒーの缶を開いて、コンビニ前の喫煙所でタバコを吸い出す。    「タバコかぁ」 曲名が適当に決まったという事実をなんとかして受け止めてはいるが、『煙』と言う言葉に似合う歌詞や想像は追いついてこない。 それに、ジンのあの言葉も、今回作成するにあたる行為も尚更だ。  きっとそれを自己解決させていかなければ、『煙』と言う作品は出来上がらないのだろう。  曇る空を向いて煙を吐き出す。 年齢を気にしてしまうのはあまり良いことではないけれど、ジンやアズの様に生きる為に音楽活動をする存在や担当者のいつも憂鬱な大塚さんを見ていると、俺もそう変わってしまうのではないかと思う。 そして今、こうして変われていない自分を感じると言う事は、まだ俺は子供なのだろうか。  子供のくせに、コーヒー片手にタバコを吸う。髭を自由に生やして味を出す。 「心と体と言動が比例していない」そんな目で見られてしまうのが嫌だから、俺自身は年齢を言い訳にしたくないだけだ。 すぅー。 誰かの価値観に触れそうな考えをかき消す様に、弱い煙を上げた。
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