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「……あ? 引っ越し?」 「うん」  久しぶりに並んで歩いても、落ち着かなくて、ろくに話せない。  そんな、小学校からの帰り道。影が伸びる夕暮れの下、(かえで)由梨(ゆり)から初めて聞かされた。「あたし、遠くへ引っ越すんだ」と。 「今度の日曜なんだけどね」 「今度の日曜って……え? あともう一週間もねーじゃん……」 「うん。こっちに戻ってこれるかわからないから、もう会えなくなるかも」  何だよそれ。嘘だろ。聞いてねーよ。寂しい。そんなの、嫌だ。  わき上がる想いが、あまのじゃくな楓にそっぽを向かせた。 「ふ、ふーん……まあ、別に? 由梨が遠くに行ったって、俺には何も関係ねーし?」  こんな場面でも悪態をつく幼なじみに呆れたのだろう。由梨の口から、「はぁぁぁぁ」と長いため息が漏れた。 「冷たいなぁ。楓は。十年近くも一緒にいたのに……寂しいとか言ってくれないの?」 「ばっ、ばっかじゃねーのっ! んなこと言うわけねーだろっ!」 「あんた、ほんと昔っから可愛げないよね。あーあ。楓も(けい)君くらい可愛かったらよかったのに」 「は……? 蛍?」 「そ。うちのクラスの蛍君。あの子すっごい可愛いじゃん。楓なんかとは大違いっ」 「……あっそっ。だったら転校する前に、アイツに告白でも何でもすればいーだろっ!!」  腹の底からそう叫んで、楓は走った。帰る方向に、ではない。由梨と歩いて来た道を、ものすごい速さで引き返す。  蛍。背が小さくて、昼休みによく虫を捕まえて笑っている、ぱっちりとした()とおうとつの少ない丸みのある頬で作られた男子。  ──由梨は、あいつが好きなのか。 「……っくそっ!!」  込み上げる苛立(いらだ)ちに身を任せ、楓は目に入った紫の花をブチブチと引きちぎった。
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