墜ちる、花火

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ここに来る前から気づいていた。 そもそも花火なんて見えやしないのだ。 2月の真冬に花火は上がらないし、 彼女は薬物の影響で視力は溶けて半年以上前からほぼ盲目なんだから。 薬物に依存した彼女と葛藤してもう6年。 何度止めたってどこからか買ってきて、どこに隠しても部屋中をまさぐって薬物をみつける。 ここで彼女の腕を引いて助けても、明日には薬が抜けてケロッと忘れてしまう。 その細い腕だって中身もスカスカで強く引けば折れてしまうだろう。 僕も彼女も、限界なんだ。 自分に小さな言い訳を残す。 伸ばしかけた腕を下げた。 その瞬間、もう後悔していた。 ドン、という音を仕舞いに ぼくたちの真冬の花火は堕ちてしまった。
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