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美津子が書斎を出たのと同じ頃、霞が関のとあるビルにある国家機関のオフィスで、二人の男性がエンジニアの背中越しにパソコンの画面を覗き込んでいた。「これで、終わりですか?」と若い方の男性が尋ねる。エンジニアが汗をふきふき、「ええ、大丈夫だと思います」と答えた。「今回はちょっとやばかったですね。」机に置いてあるペットボトルを取り上げてお茶をごくごくと飲み干す。朝からパソコンに貼り付いていたのでもうへとへとの様子だ。「hahaさんがいなかったら、防ぎきれなかったかもしれません」
「なんだよそのhahaさんって」と年配の男性が顔を顰める。
「hahaってなんだ、あの笑い声のあはは、の、はは、か?」
「え、先輩知らないんですか?5-6年前にいきなり現れた、今や伝説とも呼ばれるあの天才ホワイトハッカーのことを」
「知らねぇな。そんなにすごいのか?」
「すごいんですよ。フリーランスで上層部以外は誰も正体を知らないんですけど、とにかく知識が豊富で仕事が丁寧!特にコードの書き方とかセンスがはんぱねぇっす」
「そうそう」とエンジニアが同調する。
「しかもハンドルネームがシンプルにhahaってのがまたかっこいいっすよね。こじゃれたネームじゃなくって、ちょっと投げやりな、こんなもん大したことねーよ、ははは、って笑い飛ばすようなカッコよさがたまらんす」
「そんなもんかな。どうせどこかのなまっちろい青年が、暗い部屋でモニター三台を前にピザ食いながらやってんじゃねぇの?」
「映画の見過ぎです。それにしても、今回ってまた情報漏洩かなんかの件だったんですかね。上層部があんなに青ざめるのも珍しいですよね」
「さぁなぁ、俺ら下っ端にはわからんけどな。でもあれだけ騒ぐってことはもっとやばいもんだったかもしれんな。いずれにせよ国民の安全にかかわる重大な件だったってことは確かだろ。でもまぁしかし」
年配の男性は体を起こしてうーんと伸びをする。
「サイバー攻撃を無事に防げたってことで、めでたしめでたし、だな。」
「hahaさまさまですね」
「どうせがっぽり報酬もらってんだろ。」
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