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「ごちそうさま。今日も美味しかったよ」
白い皿に一際目立つ黄色のスクランブルが自我を主張する声だとしても
その柔らかな焼き具合と控えめな味付けに称賛の意を表して
僕は彼女の頬にキスをする。
「うふふ。今日はね、孝雄さんの大好きな物ばかりを選んでみたのよ」
彼女は子供っぽく笑う。
ほんと、実際30も2つ過ぎたというのに童顔のせいか、彼女の顔は一向に老けて見えない。
出会った頃からずっと同じ顔、同じ若々しい肌のまま僕の目の前にいる。
「孝雄さんは好き嫌いが多くていつまでも子供みたいだからあたしがしっかりしなくちゃだわ。孝雄さんの身体の管理をしなくちゃね」
「すまんね。いつまでも大きな子供で」
「ほんとうよ。でもあたしは威張り散らす大人の男の人より手を焼く子供っぽい孝雄さんが好きなんだもの仕方がないわ」
また、笑った。子供のように。
「やれやれ、僕は何時になったら君の男になれるのだろうか」
「あら、ずっとあたしの男ですわ。孝雄お坊ちゃんは」
彼女は笑う。
子供のように笑う彼女の表情は日々の安定と安心に誘う。
愛おしい、愛おしく、僕の中にずっと入れていたい、子供のように。
僕は白く柔らかな彼女の手を取り抱き寄せそのまま身体の線に合わせて指を這わす。
「孝雄さん、会社に行かなくちゃ」
「ああ、そうだね」
僕は彼女の肌に唇を這わす。
「孝雄・・・さんってば・・・」
彼女の声が次第に喘いでくる。
熱くなる体温と、荒くなる呼吸にもっと時間をかけてやりたいのだが、
「ごめんもう、入れるよ」
時間が推している事は宙意識の中でも認識している。
彼女も朝だから我慢しているのだろう。
僕の背中をギュッと掴み指を噛むことで声をころしていた。
しばらくして僕は情事に馳せた身体を起こし、シャワー室に向かう。
鏡に映る自分の顔を濡れた手で拭い、嗅いだ彼女の血の匂いに吐き気を催す。
彼女が噛んだ指先から放たれた血の匂い。
彼女の血の匂いは僕の潜在するある人の記憶を
鮮明に思い出させる。
まだ、忘れられない。
ずっと探し続けているあの人を
思い出し胸が締め付けられる。
あの人の香り。
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