落としものと拾いもの

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新はまず一番の心当たりであるカラオケへと急いで戻った。  「あの、鍵落ちていませんでしたか?」 ここを離れてからそんなに時間は経っていない。 鍵だから誰かが盗むということもないだろう。 期待を込めて聞いたが、返ってきた答えは『鍵は届いていません』だった。 ―――マジかよ・・・。 ―――じゃあ不動産屋へ行って、鍵を借りてくるか・・・。 そう思って着いた不動産屋は見事にシャッターが閉まっていた。  ―――どこまで俺はツイていないんだよ。 ポケットから財布を取り出し残りの金額を確認する。 合鍵を作ってもらうにも、あまりに少ない額しか入っていない。 ―――ホテルも泊まれそうじゃねぇな。 ―――大学の友達の家に泊まらせてもらうのも手だけど、流石に時間帯的にも気が引ける・・・。 その結果、今日はネットカフェで夜を過ごそうと考えた。 ネットカフェで受け付けをし個室へと通される。 ―――不動産屋へは明日の朝一で行けばいいか。 このまま寝てしまってもよかったのだが、折角ネットカフェへ来たためネットで動画でも見ることにした。 ヘッドホンのコンセントを差し頭に装着する。 だが動画をクリックしても音が流れてこない。 「ん?」 よく見るとコ―ドが見事に断線していた。 これでは音が聞こえないのも当然だ。 ―――ここでも悪いことが起こるのかよ・・・。 店員から違うヘッドホンを借りるのも面倒だったため、適当にネットサーフィンして時間を潰していた。 すると頭上から声がかかる。  「お兄さん」 「ん?」 密閉空間ではないがここは個室。 それでも不審に思い振り返ると、一人の少女が個室の上から覗き込んでいた。 薄い茶髪がしきりに垂れ、眺めていると明らかに未成年のように見えた。  そんな彼女がとんでもないことを言い出す。 「高校生なんですけど、私をもらってくれませんか?」 「はぁ? いやいや、無理に決まっているでしょ。 というか、どうして俺なの?」 「今いるネットカフェで、一番若いのがお兄さんだったから」 「・・・」 ―――まぁ確かにこんな時間にここにいる人たちは、訳アリそうだよなぁ・・・。 ―――そしてこの子も。 「君はどうしてこんなところにいるんだ? 出歩いては駄目な時間帯だぞ」 「帰る場所がないの」 彼女は灰色のパーカーを被っていた。 かすかにリボンが見えるため下は制服を着ているのだろう。 肩から上しか見えないが、捨てられたような子には見えない。 ―――・・・家出少女、か。 どう彼女を返そうかと迷っていると、もう一度頼み込んできた。 「だからお兄さん、私をもらって」 「無理だよ。 君は高校生だろう? 俺は成人している大学生だ。 未成年と成人が一緒にいたら、俺が捕まる」 「大丈夫。 私はお兄さんを裏切らないし『自分の意志で付いていった』って言うから」 断固として離れない彼女に言う。 「俺はよした方がいいよ。 俺といると、ろくなことが起きないから」 「それも大丈夫。 悪いことが起きるのはもう慣れっこだから」 その言葉には流石に同情した。 「・・・一体何があったんだよ?」 「その前に、この個室に入ってもいい?」 仕方なく少女を部屋へ招き入れた。 かなり狭いため少女は正座して新と向き合った。 すると自ら自分の事情を話し出すのだ。 「招いてくれてありがとう。 私は今、三人家族なの。 お父さんは私たちを置いてどこかへ行っちゃった」 「お母さんと、兄弟と一緒に暮らしているのか?」 「そう。 お兄ちゃんがいるんだけど、お兄ちゃんは酷い女たらしなの。 毎日女の人を家に呼ぶ。 だから家にいても、私の居場所がないの」 「うわぁ・・・」 「それにお母さんはずっとお仕事。 夜のお仕事って言うのかな? 夜に働いて朝に帰ってくるんだけど、いつも私とすれ違う。 強制的に家事は私がやらないといけなくて。   その生活にうんざりしちゃった。 だから家を出た」  「・・・そっか」 想像以上に重い話を聞かされ困惑した。 確かに境遇という面で言えば新より不幸なのかもしれない。 ただ彼女は綺麗な言葉をかけてもらいたいわけではないらしい。 「だからお願い、私をもらって。 何でもするから!」 「・・・そういう言葉はあまり言わない方がいいぞ。 それに俺は今、家の鍵をどこかに落としたから帰れないんだ」 「え、そうなの?」 そう言えば諦めて去ってくれる。 そう思ったのだが―――― 「じゃあ、私も一緒にここにいる。 明日になったら連れてってよ」 「はぁ? 学校はどうするんだよ」 「学校も行きたくない」 「どうして?」 「お兄ちゃんとお母さんのせいで、私はいつも馬鹿にされるの」 「あー・・・」 それ以上は言われなくても察することができた。 色々と事情を聞いていると、同情し助けてあげたいと思うようになった。 ある決心をつける。 「よし、分かった」 「連れてってくれるの!?」 「君の名前と、君の家の住所を教えて」 「・・・え?」
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