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新の家まで戻る帰り道、元気のない咲が気になり声をかけた。
「飲み物でも奢ってやろうか?」
「・・・え、いいの?」
「自販機だけどな」
流石に今はどこも店が開いていない。 コンビニも辺りには見つからなかった。 ポケットから財布を取り出すと数少ない小銭を自販機に入れる。
咲が『温かいおしるこが飲みたい』と言うためそれを買った。 拾い上げると自販機に付いていたルーレットが回り出す。
新はこんなルーレットは当たらないことが分かっているため、結果を見ずに去ろうとしたのだが、眺めていた咲が後ろで騒ぎ出すのだ。 戻ってみると『7777』が綺麗に揃っていた。
「・・・え、当たり?」
「よかったね、新さん!」
そう言って咲は笑った。 彼女のようにツイていない人生だったのが、少しだけ明るくなったような気がした。 一緒に飲み物を飲みながら道を歩く。 すると咲は突然空を指差した。
「新さん見て! 流れ星!」
「え、どこ!?」
指差した方向を見ると、確かに小さな光が真っ黒な空を横切った。
―――・・・もしかして俺、運が味方についてきた?
咲の表情も大分明るくなった。 これからはいいことが続けて起きるのかもしれない。 そう思っていた。 だが再び嫌な光景を見てしまう。
道を歩いていると、偶然ホテルから出てきた咲の母と出くわしてしまったのだ。 彼女は徹の母であり、その関係で何度か会ったことがあるためすぐに分かった。
「あら? 貴方どこかで・・・」
咲は明らかに表情を落としたが、俯いていて顔が見えなかったらしい。 正直なところ、今の状況のこともありあまり話したくない。
だが今は立て続けにいいことが起き、運が味方についたと信じ込んでいるため何故か勇気が出たのだ。
「徹の友達の新です」
「あぁ、新くんだったわね」
「ところで、娘さんのことは好きですか?」
「え? あ、咲・・・」
娘の話を出すと自分の隣にいる少女が咲だと悟ったらしい。 ホテルから出てきたのに男の姿はなかった。 これをチャンスに話をしていく。
「咲さん、家出をしようとしたんですよ」
「え!?」
「お母さんが、娘さんをちゃんと愛してあげないせいです」
「・・・」
思い当たる節があったのだろう。 母は表情を落とした。
「いつも咲さんが頑張っていること、お母さんは知らないでしょう? その姿を見ていなくても褒めてあげてください。 毎日学校へ行って家では家事をして、家を支えているんです」
そう言うと母は頷いた。
「そう、ね・・・。 咲、ごめんね。 お金を稼がないとと思って、自分のことしか見ていなくて。 いつも家のことをしてくれてありがとう。
家に帰ったら美味しいご飯があるし、洗濯も掃除も綺麗にされているから本当に助かっているの」
咲は『母とはずっと時間がすれ違っている』と言っていた。 だからまともに話せる機会もなかったのだろう。 それを聞いた咲は涙目になりながら言う。
「ううん。 お母さんも、いつも私たちのために頑張ってくれてありがとう」
咲と母は抱き合って仲直りをしたようだ。 これで咲は無事に自分の家に戻ってくれるだろう。 温かい二人を見届けながら新は静かにここを去ろうとした。 すると咲から声がかかる。
「新さん、本当にありがとう! また会おうね!」
そう言って笑顔で別れた。 新も自分の家へと向かう。 帰り道では何事もなく、元カノの鈴から返してもらった鍵で自宅のドアを開ける。
―――落としたと思っていた鍵も返ってきたし、運も味方についてきたし。
―――今日の夜はいい時間だったな。
ようやく今までの不幸が清算される気がした。 そう思っているとカーテンの向こうから朝日が差した。
「もうこんな時間か・・・。 少し仮眠を取ろう」
部屋着に着替えてベッドに潜り込む。 その時携帯が鳴った。 ポケットから携帯を取り出し確認すると相手は満だった。
「満? どうしたんだよ、こんな時間に」
『新! レポートの期限が今日までだったけど、大丈夫そうか!?』
「え?」
慌てて日付を確認する。 確かに提出日が今日だった。 仕上げたはずのレポートはコーヒーでぐちゃぐちゃになり、ゴミ箱に突っ込んだままだ。 今まで舞い上がっていた気持ちが一気に沈む。
「・・・忘れてた。 大丈夫なわけないだろ!」
レポートをするにはまずは用紙を購入するところからだ。 財布を取ろうとポケットの中に手を突っ込んだのだが、目当てのものが掴めず冷や汗が流れる。
「・・・財布、どこかへ落としちまった」
咲を拾い幸運が訪れたが、別れた途端一瞬にして不幸が戻ってきたのだった。
-END-
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