落としものと拾いもの

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落としものと拾いもの

バイトからの帰宅と同時にシャワーを浴び、ワンルームにポツンとあるこたつの上の携帯が震えているのを見て、何となく嫌な予感がした。 電話の相手は付き合っている彼女。  普段はメッセージアプリを通してのやり取りが多いため電話連絡は珍しい。 定型的なやり取りをし、あっけらかんとした口調で彼女は言った。 「別れてくれる?」 冗談かと思った。 だが話を聞くに本気で言っているのだと分かる。 「いや、別れるってどうしてそんな急に」 『だから、新が前に紹介してくれた徹(トオル)と付き合うことになったの! もう連絡先も消すからね。 じゃあねー』 「あ、まだ話は終わってな――――」 ツー、ツー、という音を携帯が無情に漏らしている。 鈴(スズ)とは半年程の付き合いだが、新(アラタ)は真面目に付き合っていたし、この関係がこの先も続いていくと思っていた。 「はぁ、マジかよ・・・」 身体が脱力しその場に崩れ落ちた。 その時ローテーブルに肘が当たり、テーブルの上のコーヒーを盛大にぶちまけてしまう。 「うわ、マズい!」 テーブルの上には、ようやく書き終えたばかりの大学のレポート用紙が置かれていた。 それがコーヒーによって読めなくなってしまっている。 「折角書き終わったのに、また一からやり直しじゃん・・・。 代わりのレポート用紙、まだあったよな・・・?」 バッグの中身を確認した。 バッグの中には空になったレポート用紙の袋。 「うわ、あれがラストだったのか。 あとで買いに行かなきゃじゃん・・・。 その前にテーブルを拭かないとな・・・」 重たい腰を持ち上げタオルが入っているクローゼットを開ける。 するとたくさんの物が雪崩のように溢れ、新は下敷きになった。 「わぁッ!? そ、そうだった・・・。 鈴が来るとか言って、急いで物を詰め込んだんだった・・・。 また片付けをし直さないと・・・」 クローゼットの中を整頓していると電話がかかってきた。 大学の友達の満(ミチル)からだ。 『新ー? 今大丈夫か?』 「うん、一応・・・」 『どうしたんだよ? 元気ねぇな。 もしかして、また不幸が続いたのか?』 「その通りだよ・・・」 今起きたことを全て話した。 『マジかー。 そんなに立て続けで起きるのは凄いわ。 年中厄年なんかね?』 「冗談はよしてくれ。 毎日が厄日だよ」 新には日常的に不幸なことが訪れる。 物心がついた時からずっとそうだった。 その境遇に慣れてはいるが、納得はできない。 「で、電話してきたっていうことは俺に何か用なのか?」 『あぁ、そうそう! 丁度俺、さっき課題のレポートが終わったんだー。 だからこれから一緒にパーっといかないかと思って!』 「・・・」 『ん? ・・・あ! そうか、さっきお前・・・』 新のレポートはまた一からになったことを思い出したようだ。 満の気持ちが落ちたのを感じ、新は精一杯明るく言った。 「まぁ、いいよ。 俺も疲れたし、パーっと遊ぼうかな」 『よしッ! そうこなくっちゃ!』 この後二人は待ち合わせ、カラオケへと足を運んだ。 歌いまくり食べまくり飲みまくり。 楽しい時間はあっという間に過ぎ、六時間程経っていた。 気付けば時刻は22時を過ぎている。 「もうこんな時間か。 そろそろ解散するか。 悪いな、遅くまで付き合わせちまって」 「いいって。 俺も大分ストレスを発散できたよ」 カラオケルームは食べ終わった皿でテーブルの隙間がないくらいだ。 当然金額は凄まじい額になっている。 「割り勘でいいか?」 「もちろん」 新は財布から金額の半分を取り出す。 すると満が慌てたように自分の服を探り回っていた。 その様子を見て、嫌な予感がひしひしと湧く。 「・・・まさか?」 「・・・新、どうしよう。 財布を忘れた」 ―――・・・分かっていたとも。 ―――どうせ俺には不幸が訪れ続けるんだよ。 これだけ不幸が続けばもう吹っ切れてしまう。 「分かった、今日は俺が奢る」 「いや、明日にでも返すよ。 流石に全額奢ってもらうのは・・・」 「いいよ。 金関係で不幸が訪れたら嫌だからな。 今日できっちり終わらせる」 「悪い・・・。 じゃなくて、ありがとう」 こうして二人は別れることになった。 結局ただ友人に奢っただけの時間であるが、それなりに楽しめたから満足感もあった。 ―――しばらくは節約をして過ごさないとなぁ・・・。 そう思いながら帰宅し、玄関の前でポケットに手を突っ込んだ。 そこにあるはずのものがない。 「・・・あれ?」 先程の満のように自分の服を探り回る。 そこで完全にないことが分かり冷や汗が流れた。 「・・・家の鍵、どこかへ落としちまった」 結局、これだけやってもまだ新の不幸は終わっていないのだ。
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