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 ベッドの中から、腕を伸ばしてベッドサイドの時計を手元まで引き寄せる。ぼんやりとそれを見つめながら、風吹はもう昼か、と一人呟く。  広いベッドの右側半分は既に冷たくなっていて、脱ぎ捨てられた白いパジャマが慌てて出て行ったことを物語っていた。蓮は、今日も研修で、朝から夜までびっしりのはずだ。  対し、風吹は最後の休み。明日からは社会人として働き出す。だからなのか、昨夜は蓮が「最後の休前日でしょ?」と、風吹をベッドへと誘った。手首の内側に残った蓮の唇の痕を見つめ、風吹は昨夜を思い出す。 「風吹、これから風呂入るの?」  帰宅した蓮が風吹の姿を見つけ、ただいまより先に聞いた。パジャマを抱えた風吹が、おかえり、と言いながら頷く。 「俺も入る! 少し待って」 「入るって……あの狭い風呂に?」 「大丈夫だよ。待ってて」  蓮は笑いかけるとバタバタと部屋にあがり、寝室で用意をすると、風吹の手を取った。 「髪、洗ってあげる。久しぶりだよね、一緒の風呂」  このところは蓮の研修も始まっていたこともあり、学生の頃のように一緒に風呂に入ることもなくなっていた。 「そうだな」  たまにはいいか、と風吹は蓮に引かれるがままにバスルームへと向かった。  学生の頃は、風呂といえばナイトの役目だった。人の少ない終了ギリギリに蓮を連れて行き、護衛のごとく傍に居て、手早く洗い終わるのがいつもの風呂だった。洗えたのかそうでないのか分からない。それでも唯一きちんと洗えていると思えたのが、蓮が丁寧に洗ってくれる髪だった。 「俺、風吹の髪、大好き。さらさらしてて真っ黒で太陽の匂いがするの」  髪を洗い始めた蓮は嬉しそうに言った。鏡越しに風吹が笑う。 「そんなにいいものでもないだろ」  男の髪なんて、と言うと、蓮は、わかってないな、と口角を引き上げた。 「この髪がね、肩とか胸とか脚とかを撫でてくだけで、ドキドキするんだよ」 「……エロ」 「そういう体にしたのは誰?」 「さあな。誰?」  とぼけた様に聞き返すと、風吹以外に誰がいる、と上から鼻をつままれた。やめろよ、と蓮の手を引っ張ると意外にも簡単に外れる。そのまま更に手を引き寄せ振り返ると、近づいていた蓮とキスを交わす。唇を離すと、蓮が微笑んで、流すね、とシャワーヘッドを手に取った。 「じゃあ、次、俺が蓮の髪を洗ってやるよ」  シャンプーを流して貰いながら風吹が言うと、いらない、と蓮が答えた。シャワーの雨が止み、風吹が顔を上げる。 「どして?」 「……洗うよりもして欲しいことがあるから」  蓮はそう言うと、風吹と対面するように、その膝に跨った。首に腕を廻し、風吹を抱きしめると耳元で、抱いて、と囁く。  その声に、全身が震えた。下半身に血が集まっていくような熱の感覚に風吹は恥ずかしい。たった一言で反応する体は、いくらなんでも堪え性がなさ過ぎる。  けれど、それを感じ取った蓮は、悠然と微笑んで、嬉しい、と囁いた。しなだれる体温と、耳元の吐息に勝てるわけなどなく、風吹は蓮を強く抱きしめて貪るようにキスをした。 唇から耳朶、首筋に薄く痕をつけて、鎖骨を舌先で辿り胸の突起を甘く噛む。風吹の頭を抱え込んだ蓮が色づいた吐息を吐き出しながら甘い声を漏らした。 「いい? 蓮……ここでしても」 「ダメなら誘わない」  蓮の答えに風吹は立ち上がった。蓮もそれに従う。抱きしめながらキスをして、蓮の中心を握りこむと、きれいな柳眉が快楽に歪む。それでもその表情さえ艶めいていて、風吹は簡単に煽られた。少し乱暴ともいえる手つきで蓮の窄みを暴いてボディーソープを潤滑剤に入り口を拓いていく。 「ふ、ぶき……もっとゆっくり…」 「無理……ごめんな、こんな風に誘われるの久しぶりだから」  こんなに堂々と蓮を抱くことなど、ここ二年は一切なかった。全寮制という環境では、外出してホテルで抱き合うくらいしか方法はなかった。確かに真夜中の寮や校舎のあちこちで愛の営みが行われていたことは知っていたが、風吹はそれをしたくはなかった。性欲がなかったわけではない。ただ、蓮から零れ落ちる声も表情も吐息ですら他人に共有されたくなかったのだ。誰が見てるかわからない、そんなところで蓮を抱きたくはなかった。 自分は思っていたよりもずっと独占欲が強かったのだなとその時初めて知った。 「嫌…だった? 淫らなヤツだって……呆れた?」  吐息の隙間から、蓮の不安気な言葉が響く。風吹は、いや、と首を振った。 「全然、逆。お前に求められて嬉しくないはずがない」  当然だろ、と最奥を指でかき混ぜると蓮の体が細かく震えた。顔を上げた蓮が細く笑っている。 「全然、届いてない」 「そう?」  中指を伸ばして内壁をなぞると、蓮がより高い声で啼く。それでも、まだ、と首を振った。 「もっと奥……じゃなきゃ…」  蓮が微笑んで風吹の唇を啄ばむようにキスをする。舌を差し出し、絡めて、お願い、と小さく囁いた。  風吹は指を引き抜き、蓮の体を一度離すと壁に向ける。脚を開かせゆっくりと自らの屹立を窄みへと突き立てた。 「届いた?」 「すごい、奥まで…届いてる……」  蓮の言葉に、よかった、と呟いた風吹はそのまま腰を動かし始める。蓮の声と風吹を甘受する体に煽られるように、風吹は一気に高みを目指した。  それからベッドへ場所を移し、最後に蓮がキスをしたのが手首だった。強く吸われ、しっかり痕になったのを見てから蓮は笑って口を開いた。 「これが消えるまでには、絶対またセックスしようね」  その時は、恥ずかしいものを残しやがって、と蓮に軽く怒った。けれど、朝になり蓮と離れると悪くないな、と思ってしまう自分が居た。それでも、これが消えるまで、なんてそんな遠い日までセックスしないで居られるわけがないだろうと思っていた。一緒に暮らし、一緒のベッドで眠るのだからチャンスなんか頻繁に訪れるはずだ。  その時の風吹は、そう思っていた。
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