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「遠藤が一晩傍にいるなんてドキドキだな。うまくやれなかったらごめんな」 「……仕事ですから。ていうか、その妙な言い回しやめてもらえませんか? 藤波さん」  事務所いる人たちが含むように笑う姿を見て、風吹はため息をついた。 「だって、遠藤と夜明けのコーヒー飲むのかと思うとそわそわしちゃって」 「そんなに心配ですか? 俺、今までそんなヘマしてないと思うんですけど」 「俺の貞操が……」 「奪わないし、奪わせませんから」  藤波の更なる御託に間髪いれず突っ込むと、藤波は口を尖らせてから、まあね、と口を開いた。 「ミスはしてないよ。してないから心配」  どういうことですか、と聞こうとすると、巡回の時間となってしまった。藤波に、南側よろしく、と言われ風吹は仕方なく帽子を被り藤波を追うように事務所を出た。  電車もバスも最終が出て行って、フロアの半分はライトが落ちている。カウンターもクローズしていて、あとはほとんど航空関係者しか残っていないはずだ。風吹は一階まで降り、タクシー乗り場へと向かった。この時間、もし蓮が帰るとしたら、ここに来るに決まっている。蓮は車の免許を持っていない。しばらく付近を警邏していると、研修生らしい一団が次々とターミナルから出てきた。風吹の読みは当たっていた。しばらくその団体を見送っていると、その中に蓮の姿を見つけた。声を掛けようか迷った。もしかしたら気づいてくれるかもしれない。蓮がカッコイイと言っていた警備の制服で会ったら何て言ってくれるだろうか――そんなことを考えながら蓮に近づくと、目が合った。けれど、次の瞬間あっさりと視線を外されてしまった。そのまま蓮は風吹の前を通り過ぎ、タクシー乗り場へと歩いていく。  蓮の隣を歩いていた同じ研修生らしい男が、蓮の肩を叩いて何か話している。極近い距離で談笑する二人の姿を見送りながら、風吹は呆然と立ち尽くしていた。夢でも見ているのではないかと思った。  蓮と風吹は五年前、大学で出会った。当時から『姫』の異名を持つキレイな学生だったが、落ち着きがなくて、交際トラブルは日常だった。それを収め、蓮が、この人だけだ、と決めたのが風吹だ。ゆっくりとじっくりと距離を縮めて仲を深めてきた。ケンカもしたし、別れると蓮が何度泣きながら叫んだかわからない。けれどそれ以上に、好きと囁き、愛してると抱きしめ合ってきた。これ以上は近づけないところまで寄り添っている、その感覚は風吹にもあって、蓮の存在は既に自分の一部のような気持ちでいた。  だから、こんな風に無視される、それには絶対に理由があるのだ。それは理解できた。 きっと、必ず何かフォローがある。蓮を信じる――信じたい。  風吹はようやく動けるようになった脚を無理に引き剥がして、ゆっくりと巡回に戻っていった。
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