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第五幕
魂を込めて放たれた矢は見事に命中。少年は安堵の顔を見せました。
それを見た遣いの者が城のほうに行き、久しぶりに「親子」は対面を果たしたのでした。
「お久しぶりです……」
「まあ、よく危険を冒してここまで来られました」
ふたりはしばし見つめあい、そして少年は、
「お久しぶりです。どうか戻ってきてくれませんか」
と、彼女に言いましたが、
「ごめんなさい。私はこの世界の住人。ここを離れることはできませんし、本当は一緒に暮らすことはかないません。あなたのことを嫌いではありませんが、完全に信じることもできません」
少年はハッとしました。そうです。あの羽衣を返さずに、彼女を母親がわりにしたのはほかでもない自分だったからです。
しかし、あきらめて帰るわけにもいきません。
「もう、あんな真似は絶対にいたしません。私たちのそばにいてほしいのです」
「しかし……、そうですわ。これを持っていきなさい」
彼女が渡したのは小さな観音様でした。
「これは村に福をもたらします。私だと思って大切にしてください」
少年はそれを受け取りました。
「それを持って帰りなさい」
神の遣いが帰るようにせかします。しかし、
「しかし、私はあなたにそばにいてほしい。こちらで暮らすのが無理ならば、せめてたまには顔を出してはくれないか」
「それは……」
神の遣いと天女はなにやら耳打ちをしました。そして……
「わかりました。神様に聞いたところ、年に一度だけ会うことが許されました。その時だけそちらに顔を出すことにしましょう」
「ありがとうございます」
こうして少年と兄妹、そして天女は年に一度だけの再会を楽しみました。
村は観音様のおかげで、米もよくとれるようになり、たいそう豊かになりました。
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