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「……よぉ、源川。邪魔して悪い」と釈明しながら俺は源川の言葉を自分の机に歩いた。机のフックには汗まみれの体操着が入った袋がかけられている。
「良いんですのよ。私もこれから帰るところでしたの」と源川はブレザーを羽織ってバッグを持った。
「まだ練習していたのか? 1人で?」
「ええ、だってまだスカーレットを演るにはまだ不十分ですもの」
俺はそれを聞いて肩を竦めた。「あれで不十分だったら全員ペケだらけだ」
「まぁ、お褒めの言葉、痛み入ります」
「源川、お前よくスカーレット役なんか引き受けたな。……性格的に絶対にやりたがらないって思っていたから。ほら、そのぉ……大学生のカレシのこともあるだろ」
源川はスカーレットとは真反対の貞淑、高潔な性格だ。歳上の恋人に対して、妻のように操をたててそれ以外の男子とは関わり合いを持つのを潔癖なほどに厭う。そもそも短い時間でも男子と2人っきりになるのさえ嫌がるような女子なのだ。今の状況は革命的変事だ。
しかし目の前の源川は淑女然と微笑んでいる。
「勿論不安はありましたわ。でも正直にお話ししたら私を励ましてくれましたの。どんなに際どい場面を演じてもそこにいるのは源川清花では無く、源川清花の顔を借りたスカーレットだからと……あの方は私の学校生活に嫉妬など致しませんわ。……私がスカーレット・オハラを演じ切れば切るほど尚更。……ねぇ、前田くん。私、私のスカーレット・オハラが観客の皆さんの人生観になったら良いなと思いますの。南部紳士に囲まれて自信満々な姿やタラに帰って再起を誓う姿、レットに去られて打ちひしがれる姿……その姿に心の底から憧れたり、勇気付けられたり、嫌悪したり……皆さんの「こうでありたい」「こうはなりたくない」の指針になりたいですわ」
俺は目を瞬かせた。俺はこの時初めて大和撫子や武家の姫様のように、何処か存在が異次元的で遠くに感じた源川清花を等身大に感じた。
源川清花はスカーレット・オハラを生きた人間だと意識している。……だが、自分はどうだろう? 俺はレット・バトラーをクラーク・ゲーブルの模倣では無く、先を冷徹に見据えるが激情家で1人の女の人生を左右しでかす1人の男を生き切っているだろうか?
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