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「知り合いかい?」
「サッカー部のエースみたいだけど、知り合いではないよ。名前は……わかんないな」
名前も知らない同級生は、おむすびを渡すとすぐに店を後にした。その様子を裏から見ていたらしい祖母が結菜に尋ねる。
「嫌なら、手伝いなんていらないよ」
結菜の表情がこわばっていたための心遣いなのだろうが、祖母の口は悪い。だが、結菜は怯むことなく割烹着の裾を引っ張って口を尖らせる。
「嫌じゃないし手伝いは好きなの。でも、こういう如何にもな格好でおむすび握っているのがバレたくない複雑な乙女心なの!」
「まだ、梅と名前の由来になった高菜くらいしか合格の味が出せていない半人前が何を言っているんだよ」
軽いデコピンを受けて、結菜は額を抑えながら恨み言を呟く。
「生まれた日に高菜のおむすびを握ったからって孫の名前につける? もう、由来を聞かれたら恥ずかしくて、恥ずかしくて」
「そう言っても気に入っているんだろうさ。高菜のおむすびは合格点、店に出せるものなんだから」
「うっ……自分の名前のくらい認められたいじゃない」
結菜が店主であるエンから味を認められ、店頭に並べているものは名前の由来になった高菜おむすびだ。
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