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おむすびくらい、誰でも握れると思うかもしれないが、この『○むすび屋』のおむすびはそう簡単にはいかない。
中の具材によって、塩やのりを変えるのだ。
その配合はすべてエンの頭の中にあって、結菜は味を頼りに学ぶしかない。
「他の具も修業あるのみだよ」
「はーい。絶対おばあちゃんに認められるようになる!」
結菜は再び厨房へと向かい、おむすびを握る。
「ぎゅっと愛情込めて、塩込めて。力の入れ過ぎはダメ。愛もお米もとっても繊細っと」
祖母の教えを忠実に守り、朝から結菜はおむすびを握る。上達の早道は数をこなすことでもあるからだ。
「よし、できた」
出来上がったおむすびをうさぎの柄が可愛い大判のハンカチに包むと、もう出掛ける時間だ。
「いってきまーす」
元気よく家を出て坂道を一気に下る。坂の下にある神社を曲がった大通りには、結菜と同じ制服の生徒たちが歩いている。
見知った顔に声をかけて合流すれば、いつもの一日のはじまりだ。
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