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収録が終わると満足げな顔の監督たちがブースに飛び込んできた。
「狗神くんの変貌ぶりすごいわ!本番一発でイケるとは思わなかったんだから!」
目を輝かせる監督はまるで乙女……いや、貴腐人の顔だ。
収録を聞いている間も楽しくて仕方かなかったようで、興奮して何やら得体のしれない感想を一気にまくし立て始めるとだれも止められそうにない。
監督のマシンガントークを聞き流し、ふと隣を見ると疲弊しぐったりと座り込む侑人の姿があった。
「侑人さん、大丈夫ですか?」
呼吸が上がり、汗ばみ少し赤面した侑人と目があった。
ウサビロコウの時とも、先輩として演技論を語っていた時とも違う熱を帯びた瞳に憧れとは違う何かよくわからない感情が湧き上がる。
もっと深く乱れさせて、自分以外の誰もこの瞳に写らなくしてやりたい。
陽輔の手が侑人の頬に触れる。
「狗神……くん、めっちゃ顔、近いんだけど……?」
ふと我に返るとまるでキスでもしそうなくらい近い距離に、侑人の顔があることに気づき陽輔自身が驚き離れた。
―――いま、俺、なにをしようと……!?
役に入り込んでいたとはいえ、男に……しかも憧れていた先輩に一瞬でも邪な感情を抱いていたなんて……
不思議そうにこちらを見ている先輩に顔を合わせることが出来ず、視線を思わずそらしてしまった。
「い、いや、侑人さん顔が赤いから熱でもあるのかと……っ!」
「確かに、少し疲れたというか……てか、狗神君の方が真っ赤だけど……大丈夫か?」
また心臓がうるさく、体温が上がっているように感じる。
だが、最初のときの緊張とは違う、また別の感情からくるものだ。
―――これは憧れだ!今は役に吞まれているだけだ!
音響監督たちは素乃と奏良のダメ出しに忙しいらしく、陽輔の異変に気付いていない上に侑人も風邪なのかと思っている様子だ。
気づいているのは陽輔自身と……
「狗神陽輔くん、あの時から思っていたけど可愛い子だねぇ」
隣の音響ブースからニヤニヤと笑いを浮かべ眺める中川だけだった。
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