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言葉を少し濁しながらも体調が悪いわけではないことを伝えると何を勘違いしたのか、侑人は陽輔の肩を掴み深く頷いた。
「男同士の恋愛なんて、どう演じていいか分からないし、緊張するよな!俺もだ!」
どうやら、侑人の先輩スイッチが入ったらしく以前に聞いたという演技論を語りだす。
陽輔も大御所声優から聞いたことがある似たような感情のみの演技論を熱く語る姿に高久と素乃は『また始まった』と言わんばかりに、そっと会話の輪からフェードアウトしている。
「例えば狗神くんが演じる亀井沢なら、ずっと昔から好きだった人にようやく会えたって気持ちを作ってみたらどうだ?」
―――俺にとって、ずっと好きだった人……
追いかけていつかはこの人と……そう思っていた人がすぐ隣にいる。
恋愛とは違うかもしれないが、亀井沢の宇佐美に対する気持ちに憧れだってあったはずだ。
この好きという感情をさらに膨らませて、役に落とし込む。
演技プランを考えている間に音響監督が収録室に入り、一人一人のダメ出しをすると本番が始まる。
まるでダメだった陽輔はもちろんだったが、侑人たちにも細かい注文やダメ出しがされていた。
……次の本番がダメなら居残りになり、多くの人に迷惑がかかる。
だが、テストとは違い陽輔は獲物に狙いを定める狼のような鋭い表情に変わった。
―――今ならイケる
目の前に立つ、侑人の背中を凝視し収録開始の合図である赤いランプが付くのを待った。
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