役者、侑人と仕事がしたいっ!

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 ―――確か……あの役者さんの名前は侑人(ゆきと)さん。  パンフレットを見返して確認した名前を思い出し、陽輔は表情を緩めた。  アニメ版の『にゃんこ戦隊ネコナンダー』でも、ウサビロコウとして声優も務めていたそうだ。  声優の道でももしかしたらと思っていたが、彼の所属する事務所のホームページを眺めていても舞台以外での活動の記録はない。  いつかウサビロコウの役者と共演したいと夢を見てこの業界に入った陽輔にとってみれば残酷な事実だ。  仕事が絶えずあるのはありがたいことだが、陽輔の目指すところは深夜アニメやアプリゲームはもちろん、『BLのボイスドラマ』の主演声優ではない。  ……そうだ。  皮肉にも今日は『BLボイスドラマ』収録日。  『BL』男性同士の恋愛模様を描いた作品。  今の人気をさらに確実なものにするべく事務所が持ち込んだ仕事だ。  音響監督も陽輔が演じるアプリゲームのキャラクターのファンらしく、ぜひともやってほしいとごり押してきたらしい。  指名で仕事が来るなんてことは、この業界では珍しいことなのだが仕事内容が内容なだけに素直に喜ぶことが出来なかった。  奥に収録スペースがあるだけで窓もないソファーがいくつか並んだだけの狭い控室は息苦しく感じる。  ボイスドラマの台本を眺め、なぜこんな仕事を受けてしまったのか悔み深いため息をつくと、エレベーターから二人の男が降りてくるのが見えた。  ここに来るのは関係者しかいないはずだ。  どちらかもしくは両方とも役者の可能性がある。  挨拶をするべきだろうかと迷っている内に、二人が何か話しながら近づいてきた。 「俺は中川さんを一生恨むと思います」 「そんなに僕のことを想ってくれるんだね、まさに相思相愛?」 「今の発言をどうとればそういう発想に飛ぶんですかねぇ!?」  ―――中川?  珍しい苗字ではないとはいえ、声も過去に聞いたことがある気がする。  陽輔は挨拶するタイミングを逃し、その会話を聞き入ってしまった。
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