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「一生僕の事を考えてくれるだなんて、大胆な告白じゃないか」
「本当にどういう思考回路っスか!!だいたいこの仕事は断ったはずですよね!!」
「ごめん。うっかり先方に伝え忘れちゃってね。僕の作為的ミス。」
「うっか……て、作為的ぃ!?どっち!?場合によっては帰りますよ!!」
この二人の間に何があったのかは分からないが、少なくとも中川という男が何かをしでかしたことだけは察することができる。
気のせいかと思いつつも気になり、視線を向けると見たことのあるスーツの男と目があった。
「おや、今回の主演の狗神 陽輔くん。どうも、はじめまして。」
覚えていてわざとか……それとも、十年以上も前のことは忘れてしまったのか……
年齢相応の少し落ち着きを持ったスーツを着た男は、出会ったときと同じ胡散臭い笑顔を浮かべている。
「こちらはうちの事務所所属の雨ヨ ウカくんだよ。」
どう考えても本名ではないであろう名前は、おそらく源氏名だろう。
今回のような年齢制限がある作品に出る時に、名前を変える声優は少なくはない。
陽輔も本当は本名で出たくはなかったが、今の人気をより確実にするためと事務所のごり押しでそのまま出演することになった。
源氏名で出演できるのが少しうらやましくも感じるが、先ほどの会話を聞く限りは出たくないが出ざる得なくなってしまったのだろうと、思わず同情してしまう。
「狗神陽輔くんか。はじめまして、よろしくお願いします。」
雨ヨウカという男は陽輔に丁寧に頭を下げた。
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