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年の離れた小さな弟の手を引き駅降りてすぐの案内地図を眺め、陽輔は途方に暮れていた。
仕事で行けなくしまった母の代わりに弟が好きなアニメの演劇を見に来たのだが、まさか似たような名前の劇場がこんなにあるとは知らなかった。
地図にはいくつもの似たような『劇場』と名前の付いた場所がいくつも記されていて、目的の場所がどこなのか全くわからない。
時間にはかなり余裕を持ってきたとはいえ、まだ小さな弟は駅から出てから一歩も動こうとしない兄に苛立ちを覚えているようだ。
「お兄ちゃん!早くしないと、ネコナンダーがはじまっちゃうよ!!」
弟をこれ以上待たせてしまえば、泣き出してしまいそうですらある。
仕事中を承知で母親に電話をしてみるかと陽輔はカバンから携帯を取り出そうとした時、後ろから優し気な男の声がした。
「君たち、『にゃんこ戦隊ネコナンダー』の劇を見に行くの?」
営業……にしては、少し派手なスーツ姿の眼鏡の男だ。
少し胡散臭さがある男ではあるが、陽輔たちが見に行く劇の名前を知っているということは観劇に来たのか関係者なのか。
この際そんなことは些細なことだと割り切り、藁にも縋る思いで陽輔は頷いた。
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