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ウエディングプランナー
「ミカちゃんっ それ。」
「・・・あっ・・・すみませんっ・・・」
「お客様に見られたら大変よ。彼氏との連絡もいいけど仕事中は謹んで。」
「はいっ・・・」
私は、適当にスタンプを送るとスマホを上着ポケットに押し込んだ。オルゴール調の賛美歌は、ホール全体に心地よい音色を奏でながら2周目に突入する。
「先輩はどうしてウエディングプランナーになったんですか?」
春色を基調とした装飾が一段落ついたところで、私は背中越しに声をかけた。
「え・・・!?いきなりどうして?」
「だって、先輩とお話できるのって今ぐらいしかないじゃないですか~」
「えぇ~~・・・///」
ピンク色の人工花を生けていた先輩は、照れくさそうに振り向く。「先輩」という言葉に若干違和感がある、小さく童顔な顔立ちが頬を赤く染めている姿が異性同性構わず可憐さを感じるくらい、先輩は可愛い人だった。
「あんまり人に話したこと無いんだけどなぁ・・・」
「いいじゃないですか~(笑)教えて下さいよ~~」
「もうっ ミカちゃんはマネージャーがいないとすぐオフモードなんだからっ」
呆れる仕草を見せるが、まんざらでもない様子の先輩に、私もつい甘えてしまう。
「分かった。でも、二人だけの秘密だからねっ(汗)」
「やったーー!!」
先輩は、名簿と来客のネームプレートを確認しながら話し始めた。
「私ね。夢だったの。人の幸せに携わることが。」
「素敵じゃないですかっ!いつからですか?」
「うーん・・・いつからだろ・・・」
眩しい天井を仰ぎながら、先輩は目をつぶる。
「あれは・・・きっと小学生、いえ、もっと前だわ。私の家ね、ちょっと変だったの。」
「変 ですか?」
「物心ついた頃から、父はいなくて、母も滅多に家に帰ってこなくなってた。たまに戻ってきたと思ったら、殴られる。そんな家庭だったの。」
「・・・そうだったんですね・・・」
「今考えたら完全な虐待よね。そんななかでも、唯一の楽しみは誕生日だった。」
「・・・お祝い ですか?」
「まさか。私の家に誕生日なんて字はなかった。でも、家の事情知ってる近所の人が、学校帰りの私にこっそり手作りのクッキーとか、バウンドケーキとか渡してくれたの。親が居ない部屋の中で、泣きながら手づかみで食べたの覚えてるわ。」
「・・・・・・」
壮絶な過去を いとも自然に語る先輩に、とんでもない事を語らせてしまっている罪悪感を覚えつつ、耳を傾けていた。
「・・・ごめんねっ なんか暗い話になっちゃって(汗)」
「い、いえっ・・・ご苦労をされてきて・・・」
「でも、その時に思ったの。こんな自分を見捨てないで助けてくれる大人みたいに、自分も人を助けられる人間になろうって。」
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