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第2話 ア◯ル・ソーリー
総理は気を使わせないように気さくに声をかけた。
「構わんよ。そう、政界には頭の硬い人間ばかりだ。今の日本は苦境に立たされている。頭の硬い政治家の打開策に、どれだけの国民が解ってもらえるか」
「総理、座薬の入れ方がわかりません」
そう、肛門の事と併用しながら、座薬の入れ方に戸惑っていたのだ。
滅多にこんな物を使わないので、考えあぐねていた。
総理は簡素に説明する。
「あぁ……肛門に座薬を差し込んで人差し指で押しなさい」
「はい。承知しました」
「いいかい? ググッ! と、奥まで指で押し込むんだよ?」
「はい……では失礼いたします」
言われた通り座薬をタコかイカの口のような肛門に差し込む。
二人だけというのもあり、総理は公の場では言えないような弱音が出た。
「失業率の悪化、いくら投入しても泡と消える追加予算、オリンピックの延期。だだでさえ問題が山積しているのに、見通しが悪くなる一方だ」
「総理、お尻の中がよく見えないので足を開いて下さい」
誰もが寝静まるような夜の時間。
環境問題によるエコロジーの取り組みで、灯りは最小限に抑えている。
ゆえに肛門は薄暗い影に隠れがちだ。
ふけっていた総理は気を取り直して歩幅を広げた。
「おっと、すまない。これで見えるかな?」
「はい。まる見えです」
「そうか……」
これだけ締りの良い肛門を持つお方が、ここまで弱気なるなんて。
痔は人の心すら蝕むのか……。
阿成総理、もといア◯ル総理は弱音を再開する。
「パンデミックの間に合わせで作ったマスクも全ての世帯に行き渡らず、結局活用されなかった。私の名前から文字りアナリマスクとして名前だけは浸透したがね」
「えぇ、マスコミは『配布されたマスクはサイズが小さく、ケツの穴の小さい総理の肛門を隠す為に作られた』と批判され、巷ではア◯ルマスクで拡散しているようです」
阿成総理は喉を鳴らして唸る。
あからさまにヘソを曲げたようだ。
いかん! 口が過ぎた。
私としたことが総理の機嫌を損ねてしまった。
話題をそらさねば。
「ですが、その後の区役所による回収の呼びかけにより多くのマスクが集まり、集まったマスクは小学校や介護施設へ寄付され大いに喜ばれました。おまけに、とある巨乳タレントはサイズが丁度良いのと2枚配布されたことで、マスクを即席のブラジャーとして使いSNSに拡散。『総理、ありがとう!』と感謝の言葉を述べております」
「そ、そうか……それは良かった……」
良かったのか? という疑問は他所に置き、何とか緊急事態は避けられたようで、私は額に光る焦りの夜露を袖で拭った。
やはり奉職の心労が精神的にたたっているようで、話が一段落すると総理は弱音を止めどない大河の滴のように続ける。
「それに加え、国際情勢も移り変わろうとしている。パワーバランスが揺らぎ各国の小競り合いが露見し始めた。何より、アメリカと中国の対立が日本にも飛び火するだろう…………気が抜けないよ」
「総理――――座薬が入りづらいので力を抜いて下さい」
「おぉ、そうか」
再び我に帰ると総理は引き締めていた尻の力を和らげる。
なんと聡明なお方だ。
日々追われる激務の数々。
最善の策を講じても、国民に理解されず揶揄され、たった一言で国益を損ないかねない外交交渉も、神経がすり減る思いのはずだ。
さらには総理の椅子に対する政界の嫉妬とやっかみ。
私用ですら尻筋の力を緩められない程、虚勢を張っていらっしゃる。
艱難辛苦がこの肛門に「キュッ」と集められているかのようだ。
早く楽にしてあげなければ――――。
「では、参ります」
私は座薬を人差し指でいっきに押し込む。
総理の肛門は生き物ように私の人差し指を飲み込んだ。
同時に総理のキ◯タマ総理がブルブル震える。
「うふん⁉ ふんぬぅぅぅううう~」
「そ、総理、ア◯ル総理! 後、後少しで……おっぴろげ内閣が可ケツします!」
「いいぞ、イイ感じだぁ! くぅぅぅ……はぁ~……」
肛門に呑まれた私の指は「チュポンッ」と音を鳴らして抜けた。
「総理――――入りました」
全てが終わり安堵する阿成総理。
「おぉ? そう、かぁ……あ!」
しかし、これまでの尻筋の力を抜く機会がなかったせいか、筋力を緩めたことで総理は「ぷすっ」と、肛門からガス吹いてしまう。
そのガスの圧力に押され尻に入った座薬が、ピストルの銃口から射出された弾丸のように飛び出し、秘書官である私の額に張り付く。
頭を撃ち抜かれたような衝撃。
総理の直腸の温度に暖められた座薬は、表面が溶け始めてベタつき、冷や汗をかいた私の額にピタッと張り付いた。
尻越しにこちらを見やった総理は目を丸くして謝罪した。
「す、すまない」
お慕いする総理に気を使わせてはならない。
私は平静を装い返した。
「いえ、もう一度、入れ直しますので、お気になさらず」
「ありがとう。君には、いつも迷惑をかけるね」
勿体無いお言葉。
総理、何も気に病むことはありません。
なぜなら――――――――。
「いえ、仕事ですから」
おわり。
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