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「…まぁ、いいや。寂しい間はなーちゃんに付き合ってもらえれば」
「残念だけど私もそんなに暇じゃないから。明日朝早いからそろそろ出るよ」
「それもいっつも言うけどさぁ、なんだかんだ時間作ってくれるよねぇ。だからなーちゃん好きだよぉ」
無防備に顔を緩める姿に私もほんの少しの笑顔で返そうとした瞬間、肩に力が加わった。
「やっぱり直紀だ!何、彼女?デート?」
無神経なタイミングと言葉に首を振り、完璧だけれどニセモノの笑みを浮かべる。
「違うよ、友達。もう帰ろうとしてた所だから」
亜紀は私にだけ聞こえる声で、また連絡するねと微笑んだ。気を遣ってくれている。
けど、はっきり聞かれた事はない。
だからまだ、怖い。
「なーちゃん」《わたし》と「直紀」《ぼく》は背中合わせの存在だ。
一番美しいと思う女の子に向けて伝えたい言葉は私の言葉で、直紀の言葉ではない。
真っ黒なランドセルが嫌いだった。過去の自分の落としものを、私は拾いにいけるだろうか。
元来た道を戻ってそこに何もなかった事にならないように、いつか亜紀に伝えられるように。
「またね」の言葉はカップに沈まず音になって、亜紀の笑みに溶けていった。
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