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※
『なーちゃん、私、カオナシって言われたんだよぉ』
ランドセルを背負った亜紀はそう言いながら笑っていた。カオナシ。恐らくクラスメイト全員が思い浮かべられるキャラクターの姿は、女の子に向ける言葉としては残酷だ。
指で目の端をぎゅっと引っ張って、カオナシだったらこんなんだよと私に見せて笑う。
バイバイと手を振った背をこっそり追い掛けたら、自販機の陰に隠れて泣いている亜紀がいた。体を隠しても、小さな嗚咽が絶え間なく漏れている。
あの背中に、私は声を掛けるべきだった。
それが出来なかったのは、人を励ませるほどに自分に自信が持てなかったからだろうか。
十年以上の時間が経った今、亜紀がその言葉を求めているかは分からない。
魔法を手にした亜紀。付き合う男はその表面の美しさしか見ていない。それが落ちればもう価値はない、あまつさえ騙されたと落胆しその手を離して背を向ける。
馬鹿だけれど正しい。お前達なんかに亜紀は相応しくない。
彼女がどれだけ努力して、どれだけ他人の言葉に傷付けられて、それでも真っ直ぐ鏡を見詰めているなんて、想像も出来ないのだろうから。
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