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終わりの始まり
全てが終わった。
“一つの終わりは一つの始まり”ーーその言葉に先を見、依存、盲信し夢中で駆け抜けた日々も全てが終われば、もぬけの殻になった。……なってしまった。
……始まらない。皆は始まっているのかも知れない。
だけど、私は始まってない。始まりがいつまで経っても来ない。
日を追う毎に虚無感が錘を増やしていく。そうして、足枷になって行くんだ。
「どう? どう?」
「ん……不味くはねぇんじゃね?」
「ははっ……素直じゃない奴。俺っちは美味いと思うけどなぁ」
「やった!! 白夜さんはどう? 美味しい?」
「えっ! あ、あぁ……、」
座卓に並べられた和菓子ケーキ。色鮮やかで、華やかで……目の前にあるそれがまた、やけに重たく映るのは何故?
食欲が無い訳じゃない。渚さんが張り切って作った物だからと、無理矢理にでも口に運ぶ。だけど。
「……美味しい、ですっ……」
「よっし!!
隼人さん以外からは高評価、頂きました~!」
「甘ぇもん食わねぇって言ってるだろ。そう不貞腐れるなや」
「不貞腐れてなんかないも~ん。ほら、かなちゃんももっと食べて? 疲れてる時には甘いものだよ!」
「ああ、そうだな。ありがとう、渚」
「…………」
仲良さげに笑みを浮かべる三人を見ていると、味気が次第に乾いていく。
会話に入っていいのだろうか……? けれど、私が口を開けば場が壊れてしまう。三人が仲睦まじくしてるのは微笑ましい光景なのに、最近はそれが障壁となり、得体の知れない蟠りを無駄に膨張させる。
「……姫?」
「はい?」
「どうした? 具合悪いのか?」
「いっ、いえっ……そんな事はーーっ……」
ほら……、壊しちゃった。私が喋ると、三人は風邪を引いた子供を見つめるような視線を私に当てる。
ついさっきまでの楽しい雰囲気が宙に浮いていく。まるで、自分達の在るべき幸福を遠慮しているかの如く。
「御馳走様です」
「え? まだ一口しか食べてないのに!?」
「ごめんなさい。部屋に戻るので、また後で頂きますね!」
だから、この場から消えようと。私は別に、同情を引きたい訳じゃない。構って欲しい訳でも、ない。
ただ、あの三人の中に私がいたら空気が冷めていく。それが申し訳ない。それだけの話だ。
「早くっ……、出なきゃなぁ……」
客室の布団に倒れ込み、ぼんやり。壁に飾ってある障子を眺める。空っぽな筈、なのに。涙で視界が濁るのは何故なのか。
引き戸から漏れ出す朱色の陽射しが、黄昏や哀愁を運んで来る。こうして曖昧に漂う時間が虚を刻む。
私はもう、梟首衆の終焉と共に燃え尽きてしまったのかも知れない。
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