雪の下

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雪の下

 十一月ともなると、やはり屋内は暖房が効いている。鶴橋涼子(つるはしすずこ)は、着ていたジャケットを脱いだ。  休日の商業施設は御多分に洩れず混み合っている。「休日の商業施設」と書いてルビに「こんざつ」と振られても良いのではないだろうか。そんなことを考えながら、人待ち顔で壁にもたれ掛かる。  涼子は全寮制の女子校に在籍している高校二年生である。校則は厳しいんだか緩いんだかよくわからない。涼子が唯一厳しいと思ったのは、今のところパートナー制度だけだ。  在籍している生徒は、絶対に異なる学年の生徒とペアを組まなくてはならない。そう言うことで、涼子は声をかけてくれた一年上の先輩である椎名詩帆(しいなしほ)と現在はパートナー関係にある。なお、この二人が組み始めたのは、涼子が二年生になった今年から。つまり前の年には二人とも別の三年生と組んでいたのだ。前の女がいるってことじゃん。と同室に言われた。  お互いに「前の女」がいることが良かったのか、はたまた詩帆が天然記念物級のおっとりさんだからなのか、涼子がクラスであらゆる仕切りを任されるほどのしっかり者だからかはわからないが、二人は上手くやっていた。問題はゼロではないが、今すぐパートナーを解消させてくれと職員室に駆け込むようなことはない。涼子の不満は、「すず」と呼ばれたいのに詩帆が「すずこちゃん」と呼んでくることくらいだ。  閑話休題(かんわきゅうだい)。  そんなわけで仲の良い二人は、この日も地元の商業施設へ買い物に来ていた。詩帆はノートがなくなったので五冊パックを求め、涼子はシャープペンシルの芯と消しゴム、部屋で使うティッシュがなくなってしまったのでそれを買いに来ている。  他にも雑貨屋などを覗いて、 「まあかわいい。すずこちゃん、これお揃いで持ちましょうよ」 「この人間サイズのぬいぐるみをペアで持ってどうすんですか。部屋から出せませんよ」  などと言いながらウィンドウショッピングしている。見知った顔ともすれ違った。みんなここへ買い物に来るのだ。  その途中で、詩帆が手洗いに行きたいと言い出したので、涼子はここで待っている、と言うわけである。  詩帆はなかなか戻って来なかった。寒いし、混んでいるのかもしれない。スマートフォンを取り出してインターネットを見始めたその時だった。  鋭い破裂音が通路の向こうから聞こえたのは。
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