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不意に解けた金縛り。奪われた声も戻っている。だか同時に、啓太の視界いっぱいに、悍ましい光景が飛び込んで来た。
金網越しに見た兎達は、みな血塗れである。目を失ったもの、耳が片方千切れたもの、足の無いもの。
…剰え、飛び出した内臓を引き摺りながら、うろつくものまであった。
漂う鉄錆の匂い。
目を覆う様なその光景に、啓太は思わず口を手で覆う。
(…これは…)
「私が此処を訪れた時、兎達は壊滅に近い状況でした。何者かに弾かれ、引き裂かれ…まともな姿をしたものは、一匹もいなかった。誰が、どうやって、そんな事をしたのか…私には直ぐに解りましたよ。彼です。白根村で生まれた白童子──名前を、甲本紗雪。」
「こ…もと…さゆき…??」
「そう。貴方が保護している少年の、本当の名です。彼は、特別な存在だ。この現世でただ一人の《神子》なのです。この世界を救うもの…従って、平凡な環境で育ててはいけない。我々は、ずっと彼を探していました。次代の頭領に相応しい者を。」
(次代の…何だって??)
男の話の後半部分は、全く意味が解らなかった。振り向こうとすると、後ろから強い力で、飼育小屋の金網に頭を押し付けられる。
「私を見るなと言っただろう? そんなに死にたいのか⁈」
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