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そうした生命の淘汰が、この世にはあるという事を、雪白は知っていた。あの恐ろしい山小屋生活の中で、虫が喰われ、鳥が喰われ、鼠が喰われて、別の命になってゆく様を見ていたからである。
時に、山奥には熊も現れた。
そういう時の熊は、たいてい酷く餓えている。腹を満たそうと、凶暴になっている。その野生の生命力に、雪白は屡々恐怖した。
──春先。
冬眠から目覚めたそれが、小屋の前までやって来ると、登喜男は、何処から盗んで来たらしき古い猟銃を取り出して威嚇した。
熊を撃ち殺さなかったのは、登喜男が銃弾を持っていなかったからなのだが…雪白は、登喜男のその行動を見て、強力な敵に対しては、強力な武器を取って身を護るという自衛法を学んだのである。
「殺して何が悪いの?」
だって、皆そうやって生きている。
魚を殺し、植物を殺し、虫を殺して生きている。食べても食べなくても、命を奪う事に変わりはない。
「なのに、どうして兎を殺すのはダメなの…⁇」
何度となく繰り返した自問自答。
いつもなら、明確な答えをくれる筈の啓太は、この件について一切答えてはくれなかった。
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