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「出ないな、留守じゃないのか?」
ドア一枚隔てた向こうで、男の一人が呟く。青白い顔で、長い髪を後ろに束ねた、痩身の男だ。
すると、隣にいたもう一人が、小さく舌打ちをして言った。
「そんな筈はない。あの子供を見張る為に、わざわざ式神を憑けておいたのだ。この中にいるのは間違いない。貴様は、この仕事が面倒なだけなんだろう──陽?」
『陽』と呼ばれた痩躯の男は、陰鬱に溜息を吐いて答えた。
「貴様はどうなんだ、陰? 禊さまは、もう充分な数の稚児を託っているではないか。この上、まだ増やすとは…あの方の好色にも困ったものだ。」
「そう言うな。私も興味があるのだ、あの少年に。知っているか? あれは、白児と呼ばれる者だ。生まれながらに、強い行力を持つという…」
言葉の最後の方は、まるで独り言の様であった。
『陰』と呼ばれた男の瞳の奥底には、昏い欲望が蠢いている。
「何としても連れて来いとの御命令だ。…行くぞ、陽。」
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