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だが、少年の願いは届かなかった。
巧く隠れたつもりでも、男達はすぐに雪白の居場所を突き止める。
息を顰めていたベッドルームに男の一人がやって来て、ウォークインクローゼットを開けた──が。そこに少年が居ないと判るや、ぐるりと室内を見回し呟く。
「どこだ。」
男の眼差しは、簡素な木製ベッドに向けられた。南側の窓辺に置かれたそれは、平素、啓太が使用しているものである。雪白は、床に布団を敷いて眠っていた。粗末な寝床に長年慣らされてきた体には、柔らかなベッドが馴染まなかったのである。
その特異な体質が、この日初めて功を奏した。
男は、しばらくの間ベッドを眺めていた──が。
やがて静かに踵を返して、部屋を出ていく。目の前を通り過ぎる土足の足。ドアのラッチ音を聞きながら、息を殺して遣り過ごす。
ベッドの下でジッと身を顰めていた雪白は、遠ざかる足音を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。室内が静寂に包まれると、モソモソとそこを這い出す。ドアに近付き耳を澄ませてみたが、怪しい物音は聞こえなかった。
諦めて帰ったのだろうか?
雪白は、冷えたノブに手を掛けた。そうして、音を立てないように、ゆっくりとドアを押し開ける。すると突然、強い力でこじ開けられ、雪白の腕は何者かに引っ張られた。
「──っ!」
悲鳴を挙げる暇も無かった。
ドアの向こうには、黒い服を着た痩せ型の男が潜んでいて、忽ち雪白を羽交い絞めにする。男達は、立ち去った振りを装い、この機を狙っていたのである。
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