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「静かに。騒ぐな。」
冷たく脅す声。男の大きな手が、雪白の口を塞ぐ。
もう一人の男は、その様子をニヤニヤと嗤いながら眺めていた。
──と、突然。
「やはり隠れていたか。」
そう言って、雪白の顎を指で捉えて言った。
「かくれんぼは、お終いだ。もう諦めろ。」
下心が透けて見えるその顔に、少年は慄然とする。
(こいつ…同じだ、登喜男と)
目の前の男は、ずる賢そうに片側の口角を吊り上げていた。顔の中央に大きく胡坐を掻く鼻。ぼってりと厚い唇。嬲る様に見詰める目は、闇と欲望を宿している。
「ほう…確かに白児だ、間違いない。白い皮膚と毛髪、青い瞳…か。アルビノの典型だな。禊さまは、とんだお宝を手に入れたようだ。」
意味の解らない独り言を吐く男に、雪白は怒りの眼差しを向けた。その途端、小さな火花が散って、男の頬を掠める。
「おっと、危ない。こんなに小さいのに、もう火を操るのか? 大したものだ、将来有望じゃないか。」
「どうだかな。それより、陰。早くこの子を眠らせろ。まさか、このまま連れていく訳じゃないだろうな?」
「解っている。そう焦るな、陽。どうせコイツも、あの方の慰み者になるんだ。今ここで味見をしていかないか⁇ 」
陰と呼ばれた男は、厭らしい舌なめずりをして言った。欲望に満ちたその眼差しが、亡き登喜男のそれと重なる。
ここに居てはいけない。逃げなければ──!
雪白は焦った。
記憶の奥に染み付いた悪夢が、激しく警鐘を鳴らしている。
逃れようとして、雪白は大きく体を捩った。だが、『陽』の拘束が緩むことは無い。暴れる獲物を押さえつける手は、どんどんキツく巻き付いて来る。
(いやだ!いやだいやだいやだ!!!)
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