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「おい、暴れるな! …陰、冗談はそれくらいにしろ。子供を怖がらせるな‼」
羽交い絞めにしていた男──陽が、細い目をキツく眇めて、もう一人の男──陰を睨め付ける。すると陰は、ニヤニヤと厭らしい笑みを履いて答えた。
「そういえば…お前には、こっちの趣味が無かったな。稚児を侍らす気概のない奴が、次代の頭領を狙っているとはねぇ。」
「黙れ、陰。サッサと眠らせろ! すぐにこの部屋を出るぞ‼」
「はいはい、仰せのままに。」
剣呑な遣り取りがあって、陰は漸く本腰を入れた。ニヤリと酷薄な笑みを口元に履くと、分厚い右手を雪白の顔の前に翳して、何やら呪文の様なものを唱え始める。
「おん、まかきゃらや、そわか…おん、まかきゃらや、そわか…」
それが何を意味しているのか…雪白は知らない。だが、強い眠気を誘う陰の声に、やがて意識を手放した。がくりと垂れる小さな頭。脱力する華奢な体を、陽は軽々と抱き上げて言う。
「撤収だ、急ぐぞ。」
そうして。
雪白は、またいづことも知れぬ未知の場所へと連れ去られてしまったのであった。
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