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白く凍れる真冬の森の中に───
その者は、ひとり佇んでいた。
辺りには、無惨に引き裂かれた野兎の死骸が散乱している。
雪と鮮血が織り成す、白と紅の饗宴…
倒錯的ですらある色の対比を愛でる様に、その者は、ふと双眸を眇める。
美しい…。なんと美しい光景だろう。
飛び散った肉片も、暴かれた膓の造形も、立ち込める血の匂いも…全ては、死せる者だけが持ち得る刹那の美だ。
見るが良い、あられもないこの姿を!
何れも此れも、肉体という名の呪縛から解放された歓びに満ちている。鼻腔を突く鉄錆にも似た特有の臭気に、その者は恍惚と笑みを履いた。
死は、浄めだ。
腐敗した世界を禊ぐ、最高の供物。
美醜や優劣で価値を判断される些少な生き物達が、死に依って、初めて平等な存在になれるのだ。
そして又。
死は、自由の象徴でもある。
誰の上にも等しく訪れ、惜しみ無く奪うもの……
神なる者が最後に与え賜う、極大慈悲の証。
此れに勝る救いなど、この現世には存在しない…
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