【一】雪白と呼ばれた少年

2/22
前へ
/168ページ
次へ
 白く(こお)れる真冬の森の中に─── その者は、ひとり佇んでいた。 辺りには、無惨に引き裂かれた野兎の死骸が散乱している。  雪と鮮血が織り成す、白と紅の饗宴… 倒錯的ですらある色の対比を愛でる様に、その者は、ふと双眸を眇める。  美しい…。なんと美しい光景だろう。 飛び散った肉片も、暴かれた(はらわた)の造形も、立ち込める血の匂いも…全ては、死せる者だけが持ち得る刹那の美だ。  見るが良い、あられもないこの姿を! 何れも此れも、肉体という名の呪縛から解放された歓びに満ちている。鼻腔を突く鉄錆にも似た特有の臭気に、その者は恍惚と笑みを履いた。  死は、浄めだ。 腐敗した世界を禊ぐ、最高の供物。 美醜や優劣で価値を判断される些少な生き物達が、死に()って、初めて平等な存在になれるのだ。  そして又。 死は、自由の象徴でもある。 誰の上にも等しく訪れ、惜しみ無く奪うもの…… 神なる者が最後に与え賜う、極大慈悲の証。 此れに勝る救いなど、この現世(うつしよ)には存在しない…
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加