【一】雪白と呼ばれた少年

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「雪…お前、また殺したな…⁈」  背後で呻く様な声が上がり、その者は肩越しに振り向いた。虚ろに巡らせた視線の先には、酷く老成した冴えない中年男が立っている。  削げ落ちた頬。 白髪混じりの長髪と無精髭。 病的な危うさを湛えた(まなこ)は、生まれつきの斜視により、正しく焦点を結べずにいる。  ゆらゆらと左右に体を揺すりながら、男は不気味に近付いて来た。 一歩…また一歩。  分厚い防寒着に包まれている所為(せい)で、一見そうとは感じられないが…男の体は、慢性的な栄養失調の為に、極限まで痩せ細っていた。 編んだ荒縄の様に、くっきりと(あばら)が浮き出た胸や、餓鬼(がき)の様に黒く萎えた四肢の憐れさを、その者──雪白(ゆきしろ)は良く知っている。 毎夜、この男に弄ばれているのだ。 厭でも解る。 もう何年も続いている、穢れた関係…… 無論それは、雪白が自ら望んだものでは無い。
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