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「雪…お前、また殺したな…⁈」
背後で呻く様な声が上がり、その者は肩越しに振り向いた。虚ろに巡らせた視線の先には、酷く老成した冴えない中年男が立っている。
削げ落ちた頬。
白髪混じりの長髪と無精髭。
病的な危うさを湛えた眼は、生まれつきの斜視により、正しく焦点を結べずにいる。
ゆらゆらと左右に体を揺すりながら、男は不気味に近付いて来た。
一歩…また一歩。
分厚い防寒着に包まれている所為で、一見そうとは感じられないが…男の体は、慢性的な栄養失調の為に、極限まで痩せ細っていた。
編んだ荒縄の様に、くっきりと肋が浮き出た胸や、餓鬼の様に黒く萎えた四肢の憐れさを、その者──雪白は良く知っている。
毎夜、この男に弄ばれているのだ。
厭でも解る。
もう何年も続いている、穢れた関係……
無論それは、雪白が自ら望んだものでは無い。
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