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観客席を離れて、狭いロビーに向かうと、佐藤さんはすぐに奥の方へ消えていってしまった。
わたしは、気になったという目当てのひとが出てくるのを待つ。
そのまままっすぐ帰るお客さんも多いけれど、出演者を待つ方もいて。
「…あ、ミズくん。お疲れー」
3人でまとまっていた女子大生っぽいひとたちが、奥から出てきた青年に声をかけた。
やっぱり、ミズキくんだったんだ。
何かするつもりもないけれど、わたしは彼の姿を結構な近距離で見かけてしまったら、舞台を観る前以上に緊張してしまった。
「おぉ、来てくれてたの? ありがとう」
彼女たちのすぐ近くにいたわけじゃなかったせいなのか、わたしがいることに気づいていないようすで、女子大生と親しそうに話し始めるミズキくん。
「もちろんだよ。来るに決まってるじゃん。前のときに約束したもん」
「そういえば。あれ、でも試験勉強とかレポートの締め切りがやばいから確定じゃないって言ってたよね?」
「そんなの、ミズくんのためならどうにでもがんばれるもん」
「この子、篠井くんのためにうまく時間を使えるんですよ、こういうときだけですけど」
「あ、ちょっと、一言余計だから! 恥ずかしい〜」
「あはは。まぁおれとしては来てくれるとうれしいけど、おれのせいで単位落としたとかにはなりたくないから……」
「大丈夫、大丈夫! そうならないようにわたしたちが見張ってますんで」
「そっか。それなら安心できるかも?」
「もう、ミズくんもふたりもひどい……」
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