止まったままの時間

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「……ど、して、こんな……」 「毎年、この季節になると、ダメなんですよ。情緒が不安定になって。それを知ってるから、なるべく仕事を入れないようにスケジュール管理してるけど、今年は、お姉さんと知り合って、関係がうまくいってたみたいだったから、ようやく安定したかなと思ったけど……油断しました」 「……」 ときに、言葉は他人をもっとも傷つけるものになってしまう。 わたしは、取り返しのつかないことをしてしまったんだと、ミズキくんの現状を見て痛感し、内出血しそうになるほど手のひらに爪が押し込まれるようにグッと握り込んだ。 「…それ、見てください」 そう言って、信夫さんは壁に貼られたカレンダーを指した。そこに目を向けると、月末…ちょうど今日の日付にはなまるが付いている。 「ただのカレンダー、ですよね?」 「…西暦、ちゃんと確認しました?」 「……」 言われて、もう一度きちんと確認すると、カレンダーの西暦は、今から10年前の1月のものだった。 「…これは、この子にとってプライベートなことだから、本来なら本人の同意なく話すのはダメなんだろうけれど、乗りかかった船だ、あなたには責任を取ってもらいますよ」 わたしは、信夫さんからミズキくんのこの惨状の原因となった過去の話を聞かされた。 日常を送ってはいるけれど、このカレンダーが示すように時間が止まったままで、彼の心は10年前からまったく進んでいないんだ。 そして、話が聞き終わった頃に、眠っていた彼が目を覚ました。
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