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彼の正体
「…お姉さん?」
体を起こし、目の焦点がまだ合わないうちに、わたしに微笑みかけてくれる彼をやさしく抱きしめた。
「……っごめ、なさ」
「ん? どうして謝るんです…?」
思わず涙がこぼれ、ふるえるわたしの背中をトントン叩きながら、彼が尋ねてくる。
「わたし、あなたのこと、何も知らなくて、傷つけて……本当に、ごめんなさい」
「…あ、もしかして、信夫さんが話したんですか?」
「ごめん。でも、彼女は知っておいた方がいいと思って。おれが勝手に判断した」
「…まぁ、いいですけどね、別に。お姉さん、おれのこと知っても引かないんですね」
「…そんなこと、するはずない」
「でも、距離を置こうとしたのは事実ですよね」
「それは、否めない、けど……踏み込み過ぎたら、戻れなくなると思って」
「そうですか。おれは、とっくに戻れないところまで来てたみたいです。この惨状、お姉さんに見られて恥ずかしいと思うくらいには」
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