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まだ幼かったミハルくんは、最初何が起こったのかよくわからなかった。それでも、この世にはもう存在しない兄という現実を日に日に実感し、彼を求めて、遺体として見つかった日と同じように雪が降る日には、自傷行為を繰り返す。
ミハルくんの両親もお兄さんが亡くなったことのショックをいつまでも拭えず、ミハルくんのケアにまで手が回らなかった。そんなときに手を差し伸べたのが、信夫さんだったそうだ。
「…たぶん、おれがまだ生きてるのは信夫さんのおかげだと思います」
「…ん、そうだね」
「はちゃめちゃな日常を送るおれを、見守ってくれた。自分自身にとどめを刺さなかったのは、信夫さんが、ああ言ってくれたおかげだと」
"ミハル自身が、代わりに生きてみれば?"
お兄さんの代わりになって生きる。
それは、そのときのミハルくんが命を絶たずに生きていくには最善の策だったのかもしれない。けれど、いつしかミハルくんという本来の姿を隠してしまった。後悔しているとも、信夫さんは言っていた。
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