目が覚めて

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「⋯⋯えっ? ⋯⋯なに?? ぅ⋯⋯うそ⋯⋯嘘でしょ??」  “それ” は、しっかりと両足を絨毯に降ろすと、徐々に私との間合いを詰めて向かってくる。  一歩  また、一歩と⋯⋯  確実に⋯⋯。  私は、足元から徐々に徐々に恐怖に支配され自由を奪われていく。  ちょうど、ウジ虫がわらわらと這い上がってくるかのように⋯⋯  ジワジワと⋯⋯  少しずつ⋯⋯少しずつ⋯⋯  腰が抜けてしまったのか、力が入らず立ち上がることができない。  私は、仰向けになると相手を正面から見据えながら四つ足でズルズルと後ずさる。 「⋯⋯い⋯⋯いや。 こ⋯⋯こない⋯⋯で」  ミシッ!  一歩  ミシッ!  また、一歩と。  着実に私との距離を詰めてくる。  ストン。  不意に、私の後ろ⋯⋯まさに頭の真後ろで何かが落ちてきたような音がする。 「っッ!?」  ハッ!っと、振り返ると私の眼前⋯⋯わずか1㎝という距離に、 「ひぃ-----ッ。」  ニタァ~~  と、笑みを浮かべた顔があった。  裂けるのではないかと思う程、横に大きく開いた口。  目は、眼球がこぼれ落ちるのではないかと思うほど大きく見開いている。  その表情は、 “今すぐ食い殺されるのでは?” と簡単に想像させた。  否が応でも目が合う。  その目には、まったく感情も生気すら感じられない。  魚の目⋯⋯水気を失い死にかけた魚の目⋯⋯そんな感じだった。  カタカタカタカタカタカタ  その顔は、突如上下左右に小刻みに震え始めた。  私は、顎が痙攣し歯がガチガチガチガチ鳴り始め、もはや言葉にならない。  ガチッガチガチガチッ  私は、硬直してしまっている首をなんとか動かし目を晒すと、”それ” からも距離を取るように後ずさる。  寝室のドアの方へとゆっくり⋯⋯。  ピシッ!  ピシピシッ パリーーン!!  突然、ドアと対面にある窓が粉々に割れ飛散する。  吹き込む風にカーテンが大きく舞った。  窓の外には、三体の同じ頭が満月の光に照らし出され薄暗く浮かんでいた。  逆光となり顔は見えない。 「キャーーーーー!!  やだ。  やだやだ。  もう、いやーーーっ!!」  ふっと、呪縛が溶けたかのように下半身に力が蘇る。  全力で駆け出し、一気にドアを開けリビングへ飛び込むと⋯⋯  バタンッ!!  再びすぐにドアを閉める。  ドンッ!ドンッ!ドンッ!!  ガチャガチャ  ドンッドンッ!!  部屋の向こうからは、ドアを開けようと、叩いたり押したりドアノブをガチャガチャ回したりと負荷がかかってくる。  それを、私は背中をドアに押し付け、震える両足、傷だらけの両腕を使い、必死に押し返した。 (なに?? なんなの?? うぅ⋯⋯。 痛い⋯⋯痛いよぉ。 やだよぉ。 怖い⋯⋯。 誰か⋯⋯お願い⋯⋯誰か⋯⋯助けて⋯⋯⋯⋯)  ⋯⋯助け?? 「⋯⋯そうだ!携帯!!」  ⋯⋯あるわけはなかった。  パジャマであるこの恰好、ポケットなんてない。  携帯電話は寝室のベッドの上だった。  とてもじゃないが、取りには行けない。  固定電話から掛けようにも、ドアを押さえている以上近づけない。 「⋯⋯どうしよう。 ⋯⋯どうしよう⋯⋯」  ドンッ!!  ドンドンドンドン!バン!バン!!ドン!     バン!ガンッ!! ドン!ガンッ!バン!  ガン!!ガンガンガンガンガンガンガン!! 「ひいーーッッ!! いやーーーーーーーっ! もう、やめてっ!! やだっ!やだやだやだやだっ!! お願いっ!! お願いだから、もうやめてよぉーーー!!」  再び腰が抜けその場でへたり込んでしまう。  膝を抱えながら、腕から流れてきた血でまみれた両の手で耳を塞ぎ、ガタガタ震え泣き叫ぶ私。  ドンッ!!  バタンッ!!  力の抜けてしまった私は遂に押さえ付けておくことができず⋯⋯ 「キャッ!!」  ズザザッ!!  開け放たれたドアに弾き飛ばされた。  カタカタカタカタカタカタカタ  相変わらず小刻みに震える顔からは理解不能な言葉が飛び出す。 「ひぃぃいぃ。 ぃゃやぁあぁぁ。 シャーーーーーーーーッ!! ひゃひゃひゃ」 「やだ⋯⋯やだ⋯⋯やだやだやだやだ」  俯せのまま這って、正面に見える玄関の方へと逃れようとする私。  大量の足音は、慌てる事なくゆっくりと近づいてきた。
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