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オカワリサマ2
以降、オカワリ様のお世話が真理の日課になった。
とはいえ仕事はそう多くない。
週に一度座敷牢を見に行き、茶碗が空になってたら冷や飯をよそるだけでいい。
何故誰もいないのに茶碗が空になってるかは謎だが、深く考えるのはやめにした。悩んでも解決しないし、考えるほど怖くなるだけだ。何かするたび祖母に叱られ、肩身が狭い思いをしてきた真理は、言われたままに体を動かす習慣が身に付いてしまっていた。
オカワリ様のお世話が日課になり、だんだん怖さが薄れていくと、子どもらしい好奇心がもたげてきた。
「オカワリ様はキレイに食べるね」
オカワリ様のお茶碗には米が一粒も付いてない。
感心して独り言を呟けば、みし、と床が軋む。
「ひっ!?」
隙間にさしいれた手から茶碗を落っことす真理。
床の軋み音は格子越しの板の間から響いてきた。子供が足踏みしているような音。
「……今の、お返事?」
一瞬の恐怖が萎むと、かえって親しみが沸き上がる。
「本当にいたんだ。おばあちゃんの言ってたこと嘘じゃなかった」
週に一度来る度お茶碗は空っぽになっていたが、猫がこっそり忍び込んで食べたのかもしれないと疑っていた真理は、格子を掴んで生き生き身を乗り出す。
「私へのお返事ならもっかい床を鳴らして」
真理が疑い深げにせがめば、みし、と床が軋む。
「やっぱり、言葉もわかるのね」
体の奥底から興奮が沸き上がる。
人ならざる存在と交信できた喜びと驚きが完全に恐怖を吹き飛ばし、一気にオカワリ様に親近感が湧く。
「オカワリ様、ご飯だよ」
みし。
「キレイに食べたね」
みし。
「なんで私がいる時は食べてくれないの。恥ずかしいの」
みし。
「はいなら一回、いいえなら二回床を鳴らして。私が見てる前でご飯を食べるのはいや?」
みし。
「残念、オカワリ様が食べるところ見たかったなあ。ねえねえ、オカワリ様ってどんな姿してるの?おばあちゃんは俗な人間には見えないって言ってたけど、ひょっとして角が生えてたり目がたくさんあったりするの」
みし……みし。
「違うのかあ。あ、もしかしてだけど私とおんなじくらいの子供だったりするのかな。足踏みの音がね、私が廊下を歩く時の音とよく似てるの」
みし。
「あたり?なあんだそっかあ、そうなんだ。オカワリ様も私とおなじなんだね」
私と同じ、おばあちゃんに忌み嫌われるのけもの。
冷や飯食いの居候。
「私たちちょっと似てるね、オカワリ様」
みし。
「友達になれるかもね」
みし。
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