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オカワリサマ6
祖母の身に何かとんでもない災いが降りかかったと直感した真理は、血相を変えて祖母の部屋へ急ぐ。
神様オカワリ様、どうか許してください。お願いですから許してください。
座敷牢を壊し、納戸を揺すり立て、お腹が一杯になって力を増したオカワリ様は次に何をする?
「おばあちゃん!!」
祖母の和室を隔てる障子を勢い開け放ち、絶句する。
畳の真ん中に祖母が仰向けに倒れている。
口にはあぶくさながら真っ白いご飯がみっしり詰まり、その上に朱塗りの箸が誇らしげに突き立っている。
「あ…………」
腰を抜かしてへたりこみ、震える声で呟く。
「オカワリ様?」
みし。
「オカワリ様がやったの?」
みし。
「なんで……」
みし。
『おばあちゃんなんかいなくなっちゃえばいいんだ』
みし。
そうだ。
真理は確かにそう願った。
座敷牢の格子に寄りかかって膝を抱え、しょっぱい涙を啜りながら願をかけた。
なにげない独り言だ。
そうなればいいのにというただの妄想だ。
しかし、オカワリ様にとっては現実だ。
自分が犯した過ちに絶望し、もはや涙も出てない真理の目に、和室に飾られた豪勢な仏壇がとびこんでくる。
仏壇の扉は観音開きに放たれ、仏前にはご飯が手向けられていた。
ご飯のてっぺんには、祖母の口に突っこまれたのとは別の箸が真っ直ぐ突き立っている。
忘れていた。
この家に来て初めておじいちゃんに挨拶した時、おばあちゃんが教えてくれた。ご飯にお箸を刺すのは、死んだ人の食べ物ですよってわからせるためだって。
初めて仏壇に手を合わせた真理は、粗相をしない事だけで頭が一杯で、祖母の教えを上の空でしか聞いていなかった。
オカワリ様はもう死んでるから、あそこで死んだから、ああしたんだ。
ああしないと食べられないから。
祖母の口から喉にかけて隙なく詰まっているのは、オカワリ様がお腹一杯になってもういらない冷や飯だ。
みし、みし。
音が鳴る。
床板が軋む。
振り向くのが怖い。
「オカワリ様……」
みし。
「たすけて」
みし。
みし。
オカワリチョウダイ。
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