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静かな夜空とは対照的に、ステージ上では賑やかな照明や映像が彩る。そして迫力あるリズミカルな曲に包まれる中、シンクロしたダンスと歌声を披露するのは『JJ』という、10代から30代までの男女に絶大な人気を誇るダンスアイドルグループだ。
結成三年目となるグループのメンバーは7人で、美紅がリーダーを務めている。今日は、明日の本番に向けたリハの最中だ。
周囲を包み込む音楽が止むと同時に、ステージ上では息を切らす音が広がり……メンバーは一様に息を切らしながら、近くのペットボトル片手に座り込んだ。
美紅は凛々しい面持ちで、上を向き息を整えながらメンバーの真希のもとへ。
「おつかれ。あのさ、ダダッジャージャジャッのとこ、ちょっぴりだけど早かったよ。映像は梨沙のところで切り替わるし、ここ合わせないと割と目立っちゃうと思う」
疲れた顔の真希は苦笑して
「あぁうん。わかった……」
と裏に行ってしまう。すると横から、渋い笑みを浮かべる梨沙が声をかけてきた。
「おつ。あんま張り切り過ぎてもさ、返って逆効果じゃん?」
美紅は小さくため息。
「でも明日本番だし、全部出しきらなきゃさ。三周年記念のコンサートだもん」
「まぁそれはそうなんだけど。みんな頑張ってるし、究極の完璧求めるよりさ、楽しもうよ。
まぁ美紅はリーダーだしね、責任背負ってるのも分かるけど」
「リーダーだからっていうか、私たちも感動できて皆にも感動を与えられる、最高のステージを一緒に作りたいと思ってるだけ」
「そっか。んまぁ頑張り過ぎないようにねリーダー。先行ってるよ」
裏に小走りで去っていく。
美紅がここまで本気になるのには、ある理由があった。
ーー美紅は高校生の時、スカウトを受け芸能事務所に入所。当時はアイドルにそこまで興味を示さなかったが、のちに社長の勧めで大手プロダクション主催のダンスアイドルオーディションを受けることになった。
すると美紅の予想に反し、最終選考を見事に通過……これがきっかけで歌と踊りの煌びやかな世界を、より身近に感じることになった。
大ステージで歓声を受け、別世界のような空間の中で輝きを浴びる姿……これに強い感銘を受けた美紅は、そこから毎日毎日血の滲む努力をして仲間としのぎを削っていく。
やがて決死の努力は結実し、ダンスアイドルグループ『JJ』のリーダーとして抜擢。そしてこの『JJ』こそが爆発的なヒットを生むこととなった。
美紅はアイドルの仕事を通し、かつて自分が経験した感動と同じように、それを人々に伝えたいという思いが強まり……そのためには、誰よりも完璧な姿でなければならないという、強い自戒にもなっていったのだーー
美紅は、だだっ広い観客席に目を向け、明日の本番を頭で描いた。
(……きっと一番凄い光景になる。絶対みんなと最高なものにする。そして感動を届けたい!)
目を瞑りイメトレを始める。すると頭上でガタン! という大きな音。美紅は何かと思い不意に見上げれば……視界に飛び込む大きい何か。
「えっ……」
という刹那の声の後
ーーガシャンッ!!
車が衝突したような音が響き渡った。周囲のスタッフは一斉に目を向けた。
「……やばい下いる!! こっち早く!」
スタッフ達が大慌てで駆け寄る先には、照明機材の下敷きになった美紅の姿。機材を数人がかりで動かし、美紅を引っ張り出すも意識はなく……周囲は騒然となったーー
☆
照明機材落下事故から三週間が経ち退院日となった今日。美紅はベッドに腰掛け、静かに荷物をまとめていた。
入院中は見舞い人とろくに話すことなく、憔悴しきった姿を見せていた。これはライブに出られなかったことが原因ではない。顔に大怪我を負ったせいで、消えぬ傷跡が残ってしまっていたからだ。その傷はアイドルとしての命を絶たれると同時に、夢と人生を失ったも同然のものであった……。
すると、扉をノックする音。しかし美紅は反応することなく、淡々と荷物をまとめ続ける。
「入るよ美紅」
ゆっくりドアが開く。そこには、どう声を掛けたものかと未だに悩む梨沙の姿。
「……やっと退院だね。おめでと」
「……うん」
「あ、ファンレター美紅の家に送ってあるよ。すごい皆心配してる。美紅、一番人気だったから当然だけどさ」
あの後、コンサートは美紅抜きで進行し無事成功を収め……事務所には、身を案じるファンからの手紙や見舞い品が、山のように届いていた。
美紅も当然そのことは聞かされていたが、顔の傷は励ましで消えるものでも無く……美紅自身は、全て過去のものとケジメをつけてしまっていた。輝いていた自分を思いおこす程、苦しくなるばかりであったのだ。
美紅は、無表情のまま口を開く。
「うん……ありがとう」
「……あ、そうそう優紀君もさ、すっごい心配してた。仲良かったもんね、きっと連絡待ってるよ」
優紀とは男性アイドルで、レッスンなどを通し仲良くなった二つ年上の人物。
美紅と同じく、歌やダンスに対する熱い思いを持っており、プライベートで連絡をとる仲だった。美紅にとって友達よりも話しやすく、また頼れる存在であったのだ。
このとき恋愛感情が無かったと言えば嘘になるが、恋愛禁止であったため何を望むこともしなかった。そんな優紀とも、一切連絡を取らなくなっていたのだ。
美紅は伏し目がちなまま、うんと返す。
「……えと。また戻ってきたらさーー」
「もういいよ、やめて」
顔を隠す様に蹲る美紅に、梨沙の顔からは作り笑顔が消えていった。
「え……?」
「……もう慰めとかいい。この顔でどうやって戻るの。
一番人気だったからって……もうダメだねって言いたいの」
「いや違っ、別にそうじゃなくってさ……」
「……出てって」
「美紅……わたしはーー」
「いいから出てってよ!! もう私に構わないでよっ……!」
肩を震わせる美紅を、呆然と見つめる梨沙。時が止まったような時間が数秒続いた。
「……ごめん。じゃあ、行くよ」
静まった部屋では、すすり泣く音だけが虚しく広がった。
本当はこんなことを言うつもりではなかった……しかし、全てに対してマイナスにばかり思考が向いてしまう状態では、言葉も選ぶことは叶わなかった。握り締められた手が震えるのは、そんなもどかしさからだ。
「っどうして、私だけこんな目に……っ」
夢と希望を持って生きがいとなる仕事を見出し、二十歳を晴れやかに迎えることができた、その矢先の出来事だったーー
☆
退院して数か月経つ頃、美紅は一人暮らしの自宅にすっかり籠るようになっていた。
締め切られたカーテンの隙間から僅かに夕日が差し込む。周囲には、よれた服や飲みかけのペットボトルが散乱。
あれから事務所は退所し、親や友人との連絡も断ち、さらには外で人に会うのも怖くなり、必要なものは全てネットで注文するようになっていた。そのため、事故のショックで自殺したという噂すら広まることに……。
ベッドの上でブランケットに包まる美紅の顔を、スマホの青白い光が照らす。何千という未読メールやメッセージが溜まっていた。
いつものように注文したものを確認しようと指を伸ばすと、不意に新着表示が出たことで押してしまう。
「あ……」
そこには優紀からのメッセージ。
『俺が美紅やってみた!』
そして動画が貼りつけられていた。
(これ、なに……?)
サムネイルには、美紅をモチーフにしたアバター。気になった美紅は、なんとなしに動画を再生。
画面に現れたのは、暗闇に包まれた大きなステージ。『JJ』人気曲のイントロが流れた途端、ステージは一瞬でライトアップ。それと同時に、アバターはオリジナルの振り付けでダンスを披露、歌い始めた。
背後のスクリーンは動きにシンクロしてカットが変わり、周りを取り囲む色とりどりの照明、駆け巡るレーザーはリズムに合わせステージを包む。本物のライブと変わらぬ臨場感だった……その迫力に美紅は、思わず鳥肌を立てる。
「なにっこれ……すごいーー」
サビにさしかかるとステージを無数の虹の玉が飛び交い、大きな光線が背後で形を変化させ、アバターを引き立てるように動きだす。
驚くべきは、アップになった際の表情、仕草、手つきも滑らかで、もはや人間が動いているのと変わらない印象を与えていたことだ。これに美紅は目を見開き、ただただ驚愕。
「すごい……かっこいいーー」
そした美紅にとっての一番の衝撃は、本来なら絶対できないであろう、衣装の形やステージ上の演出だった。
見終わって唖然となっていたが、ふとあることに気付く。
(別の動画もこんなにーー)
なんと月一で様々に動画が送られていたのだ。美紅は生唾を飲み、順番に見ていき……やがて見終えた時には、すっかり目も鼻も真っ赤。拭った袖はびしょびしょ。
過去の栄光を思い返し、悲しんだからではない。塞ぎ込んでしまった自分から皆が離れていく中、優紀はずっと見放さずにいてくれた嬉しさと、かつて輝かしい世界に感銘を受けた時と同じくらい、この映像に感動したからだ。
(これ全部優紀が……でもどうやって)
気になった美紅は、意を決して返事を送ることに……しかし今まで無視してしまっていたのに、いったい何て言えば良いのか。取り消しては、また書いてを繰り返し……結局、数時間悩み続けてなんとか文を作りあげた。その内容は、謝罪と感謝と今の気持ち、そして動画の内容について問うもの。
しかし送信してから、これは長すぎたかもと項垂れる。その後、時間を空けて返事は来た。
『やっと来た、マジでめっちゃ心配したんだぞ!! ってかいつも長文すぎ笑
気になっただろ? これバーチャルで、実際は俺が踊ってんだ。声はボイチェンしててさ。どうびっくりした?
実はこっそりバーチャルライバーやってて。だから美紅、一緒にやらない?
顔の事は聞いたよ、気にしてんだろ。でもさアバター使えば気にならないじゃん。感動できるステージ一緒に作ろうぜ』
「バーチャル、ライバー……」
美紅はすぐに検索をかけた。
(あ、あった……アバターを使って、動画投稿や配信をする人のこと。
体に専用の機械をつけてリアルタイムに動かす……じゃあ、アバターになって踊れるっていうこと?)
美紅はごくりとつばを飲み、言い得ぬ期待を胸に灯す。
優紀の言う通り、アバターを使うなら顔を気にせずとも良い。自分がキャラとして生まれ変わり、もう一度自信を持って踊れるかもしれない……しかも理想的なステージを作る事だって可能かもしれない。そんなことがしきりに頭に浮かび始める。
その後、優紀とかつての様なやり取りをして……気づけば顔には、忘れていた笑みが垣間見えた。
バーチャルを、実際に体感するという話になったものの……美紅は外に出ることに抵抗があったため、誘われたスタジオは断った。しかし、明日予定の空いている優紀が自宅へ来ることとなったため、体験できることに。
美紅はやり取り後も、取り憑かれたようにバーチャルライバーの動画をネットで漁り始め……いつしか眠りこけてしまったーー
スマホの電子音に気づき、徐に体を捩る美紅。
「ん……いけない、あのまま寝ちゃったんだ」
目をこすりながら、新着を開くと優紀からだった。早めに終わったから二時間くらいで着くという内容。
一瞬固まった後、跳ねる様に飛び起きる。
「えっ!? 嘘待って今何時……やばっ! 部屋片づけないとーー」
ベッドから慌て出るが、身体が一時停止。片付けるにしても散らかりすぎて、どこから手をつければいいのか分からなかったからだ。
しかし、立ち止まってはいられない。このままでは、アイドルとしてだけでなく、女性としても終わることになるのだから。
大急ぎで散らかる物を押入れと浴室に押し込め、リフレッシャーをひたすらまき窓を全開。服を着替え、身なりを整えた。
久しぶりに動いたせいで、簡単に息が切れる。
「はぁ……あ、マスク。どこだっけ、確かここらへんにあった気がする。どこマスクーー」
その後、時間通りに優紀が訪ねて来た。緊張しながら恐る恐るドアを開くと、マスクと帽子をつけた優紀の姿。足元には大きなスーツケース。
優紀は美紅を見るや否や、頭をポンッと軽く叩いた。
「今まで無視してくれた仕返しな。しっかし髪長くなったな。久しぶり、元気だった? ていうのもおかしいか」
美紅は久しぶりに話す恥ずかしさと、自分の顔が気になることから、顔をそらす。
「うん……ごめん、ありがと。入って」
そして、旧ゴミ屋敷の部屋へ招き入れたーー
すっかり片付けられた綺麗なテーブルには優紀が買ってきた飲み物やお菓子、そしてノートPCが並ぶ。
「ホントはさ、お見舞いも行きたかったんだけど、どうしても合わなくって」
「ううん、むしろその方が良かったかも。たぶん酷いこと言ってたと思うし」
美紅は、顔の傷が見えていないかという不安からマスクをしきりに手で直す。
「だろうな、別に良いけど俺は。そりゃあれだけ本気で没頭してたのに、ショックだろ」
「……うん。何かもう、どうしたら良いか分かんなくって」
「分かってる方が怖いって。そうだ前にさ、俺もそんな時あったの覚えてる?」
美紅の頭には一つしか思い浮かばなかった。
それは交通事故に巻き込まれ足を骨折した時のこと。当時、自暴自棄となり塞ぎ込んでいた優紀の姿は、今でも鮮明に思い出せた。
「覚えてる。交通事故の時のことでしょ?」
「そうそれ。足やったじゃんあの時。貰い事故でこんなのってマジかよ……って思って萎えてた時さ。周りが励ます中で、美紅は俺に怒ったんだよな」
そう言っておどけ笑い。
「それは……だってもう諦めるみたいなこと言うから。あんなにいっぱい目標とか夢とか話してたのに、半ばで諦めて欲しくなかったし」
ツンとしたいつもの素振りを見せる美紅に、安堵した優紀はクスクスと笑う。
「まっ、その後すっごい食事とかリハビリのこととか、昨日の長文みたいなの送ってくれたけどさ。そのおかげで、なんとか順調にここまで来れたわけだ。
だから、それと一緒だよ。今の俺の気持ちは」
温い眼差しに気付いた美紅は、ぎこちなく頷く。
「……うん。そっか」
「諦めて欲しくないんだ美紅には。こんな俺が言うのもなんだけど、美紅は表現力に長けてると思う。それって、どんだけ今まで死に物狂いでダンス学んできたかってのが、現れてんだよ。
それをここで眠らせちゃうのは勿体ないし……俺は、まだ見てたい。熱い思いを持ってステージに挑む美紅の姿を」
こそばゆい感覚に囚われた美紅は、お菓子の袋を無意味に触れる。
「うん……ありがとう」
「今までさ。本気で話し合えたじゃん、俺たちって。それって、俺にとって凄い意味があったんだ。
本気で言い合いできるから、本気で信頼できる。熱量が同じだから、話してると凄く楽しい……だからまた、そうやって話したいなって思ったのもあるし」
美紅の頭に今までの優紀とのやり取りが蘇えった。真剣に仕事の事で言い合いをしたことや、お互いのステージをこっそり見に行っていた事など……美紅は静かに相槌を打つ。
「だからさ、ちょっとでも希望持って欲しいなって。あれも送ったんだ」
「あの映像は本当に感動したよ。それに、バーチャルでしかできないこともありそうで……可能性が無限に広がってるみたいに感じたの」
「そうだろ。良かった、そう思ってくれて。えっと……ちょっと待ってーー」
そう言って美紅の隣に座り直し、パソコンで撮影のメイキングを再生し始めた。
全身を包む黒いスーツを着てCMの撮影現場のような場所で踊る優紀が映る。
「へぇ……こうやっていつも撮ってるの?」
食い入るように見つめる美紅。
「そ! このスーツで全身の動きがアバターと連動することができるわけ。アバターも外注して、表情が柔らかいやつにしてあるんだ。
あ、ほら今映ったとこ、自分の姿もあの画面で確認してさ」
「すごいっ! へぇぇ本当にこんな正確に伝わっていくんだ……」
やがて優紀の持ってきた道具で、アバターを動かす体験をすることになった。
美紅は、優紀が取り出す小さな黒いものが気になり、手に取ってみる。
「これなに?」
「それはトラッカー。それがあることで動きを認識できるんだ。全部で七個くらい使えば、かなり正確に反映されるよ」
優紀にトラッカーを装着されながら固まる美紅は、まるで服を着せられる子供だった。
「よしっ、じゃあマスクとって」
その言葉にドキリとして、思わず顔が強張る。
「えぇ……とらなきゃだめ?」
「もちろん、表情映った方がリアルになるし。そこを一番見て欲しいんだよ。嫌なら無理して外さなくていいけどさ、俺は美紅が感動した顔見たい」
無垢な笑みを浮かべる。この笑顔に、お願いされて断ったことのない美紅は、やはり今回も抗えず……渋々マスクを外すことに。
傷跡の大きさに引かれるかと思ったが、優紀は何故か嬉しそう。これに、美紅は思わず視線をちらつかせた。
「いねっ! よしおっけー。じゃあ腕広げてそのままね……」
その後少し経ってから、優紀から画面を見る様に言われ、目を向けると……その中で自分と同じように驚く顔のアバターが。
優紀は微笑みながら、動いてみてと声をかけるので、美紅は早まる脈のまま腕や足を動かしてみる。
「っすごい……! こんなふうなんだ……やばい感動ーー」
画面を凝視して、軽いステップを踏みひたすら驚愕する美紅。
「っだろ? もう一人の自分であって自分自身。不思議な世界だよな。始めはウェブカメラで、凄いなって思った程度だったけど……ダンスとかやってる動画見て、これ面白いなって思って。しかもライブ配信で、まさにライブだってできるし。
そんなこんなで、どんどん惹かれて。気づいたらね、あはは」
この時すでに、美紅は現役の頃のような目の輝きを取り戻していた。
綺麗な姿で映るもう一人の自分。それは第二の人生……可能性を見出すに事欠かなかったのだ。
興奮を抑えるべく噛んだ唇は、すぐに開く。
「ねえ優紀! もう少しこれ勉強して、一緒に映像作りたい。送ってくれたやつみたいなの、私もやってみたい!」
優紀は、その言葉を待っていたと言わんばかりの様子。
「よっし、じゃ決まりだなっ! 忙しくなるぞ、きっと美紅だったら良いものできるからな。あれだけ本気で積み重ねてきたものがある。絶対生かせるさーー」
☆
優紀と共に動画づくりを始めた美紅は、その後みるみるうちに上達。いつしか外に出て、スタジオへ行くこともできるようになった。
やがてオリジナルダンス動画を優紀と共に製作。サイトで配信することとなったのだが……これが見事に話題に。これまで本気で打ち込んできた本業の人間が、本気で作り込んだ結果として相応だろう。振り付けの独創性や演出の出来栄えが視聴者に受けた形だ。
そんな話題性から、バーチャルライバー事務所の目に留まり……美紅はアイドル活動を止めた優紀と共に、バーチャルライバー事務所へ所属することになった。現在は、クレナイというバーチャルアイドルとして活動中だ。
この日も動画づくりの最中。簡易的な撮影現場のようなスタジオで、踊り終えると息を切らし優紀のもとへ。
「どうかな? あの衣装だと、今の振り付けの方が映えると思ったけど」
パソコンをチェックする優紀は、親指をグッと立てた。
「完璧すぎっ! これ間違いないわ。やっぱすげぇ美紅。こんな発想あんまできないぞ?」
「ふふっ良かった。でもほんといつ見ても感動。こうやってまたアイドルの仕事が出来るなんて。教えてくれて……本当にありがと」
視線が合うと、クスッと笑い声が揃う。
「俺も感動だわ。よしっ、じゃ何か食べて帰るかぁ……何がい?」
「えぇどうしよっかな。この前のとこ?」
「あそこ好きだな、あはは。じゃそうすっか」
当初から二人で話し合って動画を製作することが多く、必然的に共に過ごす時間が増えた美紅と優紀は現在同居中だ。
こうして美紅は時代の恩恵のもと、二度目のアイドルの道を優紀によって導かれ、優紀というパートナーと共に歩み出したーー
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