道端の靴、その理由

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 靴が片方だけ道端に落ちているのを見たことはないだろうか。  これは、そんな話。  まさか本当にベランダから逃げるはめになるとは。  三条はそう思いながらおぼつかない足取りで歩いた。 三条は秋穂と浮気した。  秋穂からすれば三条が浮気相手だったわけだが。  秋穂には向井という男がいるのは知っていた。  彼女から彼への不満を聞いているうちに、いい感じになってきて、彼女のマンションへとなだれ込んだのだ。  最中。  向井が秋穂のマンションへとやって来るというまさか(もしくはお決まり)の展開になった。  修羅場を避けるため、三条はベランダから逃された。幸いにも彼女の部屋は2階。これくらいならば、なんとかなった。  それまではよかったのだが・・・。  秋穂の奴めええ。  間違って自分の靴を渡しやがった。  女物の靴を履く歩きにくさ。三条の足取りがおぼつかないのはそのためだった。  慌てていたとはいえ、そこ間違えちゃダメ。  そんなところがまたかわいいんだけど。  三条は立ち止まって振り返り、秋穂のことを思った。  せっかく逃したのに、バレちゃったよ。  玄関に見慣れない男物の靴が残されているわけだから。  三条の目の前には大柄な男が立っていた。向井だ。怒りで顔を歪ませている。 「今度はお前をボコボコにしに来たぞ」  今度はお前をって・・・。心配した通りだ。と三条は胸を痛くした。  秋穂は向井から時折暴力を受けていた。その話をさっきまで聞いていたのだ。 「てめえ」  三条の怒りも頂点に達していた。  バコッと音がして、三条の後ろ回し蹴りが向井の顔面を捉えた。  一発で向井の大柄な体が沈む。 「もう二度と秋穂ちゃんに近づくな」  三条はそういって立ち去る時、右側の靴が脱げていることに気づいた。あたりを探しても見当たらない。蹴ったときにどこかへと跳んでいってしまったのだ。 「お詫びに新しい靴を買ってあげよう」  三条は秋穂に正式に交際をお願いすることにした。
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