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人の気配に気づき、鳥居を見る。俺のお気に入りの子が入ってきた。
彼女は受験、試合と何かあるたびに参拝しては、その後律儀にお礼を言いに来る。そういえば、前に『医師国家試験に合格しますように』って絵馬に書いていたな。
手を合わせ、目を閉じた彼女の心の声が俺の耳に届く。
無事、試験に受かりました。ありがとうございます。
――それはいつも君が頑張ってるからだよ。受かったのは君の力なんだよ。お礼なんていらないのに。
目を開いた彼女と目が合ったような気がしてドキッとした。
彼女の瞳はとても澄んでいる。真っ直ぐに正面を見つめる顔が綺麗で思わず見とれた。
彼女は頭を下げて踵を返した。
こんな情けない俺でも、俺を励みに頑張る人がいるんだな。
ただいるだけでも、誰かの支えや、望みになれるのかな……
――少しでも意味があるなら、ここにいよう。
黄昏時。静かに今日が終わろうとしている。
――明日も天気良さそうだな。
俺は境内にある古い大木の枝に座って、沈でいく夕陽と彼女を見送った。
おわり
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