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出会い
ある日、結婚して8年になる旦那が5才のかわいらしい男の子を連れてきた。
「これは、俺の息子だ。」
と、淡々とした口調で、事のなり行きを説明された。
なんでも、元々私と結婚する前から付き合っていた同い年の女性がいて、私と結婚してもそれが続き、そして出来た子供がこの子らしい。この度、その女性が結婚することになり、息子を押しつけてきた、とのこと。
「は?」
「そういうことだ。俺は暫く仕事の関係で海外に行くから3年は帰ってこない。お前が世話をするなり、誰かを雇うなり、施設にいれるなり、好きにしろ。金は自由に使え。」
「つまり、この子をご自分で育てる気はないと?」
「当たり前だ。そんな面倒なこと、したくない。」
「それはあまりに横暴では?仮にも貴方の子供です。」
「何をしようと、何を言おうと反応しない。それに、たかだか5才の子供なんだ。大人の話なんて理解できやしない。それに、お前だって子供の頃の出来事を全て覚えている訳じゃない。つまり、忘れていくのだ。」
「は?」
「話は以上だ。」
と、言って私とこの子供を置いて出ていった。私はその後ろ姿にため息をつく。
急に帰ってくるなり、リビングに呼び出すし、何事かと思えば大問題を私に放り投げてくるし。
私は髪をぐしゃぐしゃ、とかき混ぜながらソファにゴロリ、と寝転がる。
「反応しなかろうが、子供だろうが、大人の言うことは理解できるし、全部じゃなくても覚えているものだ。簡単に忘れることなんてできないだろ。
…まったく、相変わらずの俺様っぷりで呆れる。染山、ココア、淹れてくれー。」
「奥様、今はそれどころではありませんし、旦那様が行ったそばからソファにダラ寝をするのはお止め下さい。」
染山に言われるまで、一瞬忘れかけていた。問題の子供のことを。
染山は女性で私の秘書兼執事のような凄い人で、年が近いこともあって、接しやすい。
「…え、と。」
私は男の子に目を向ける。男の子は下を向き、服の袖を引っ張って、何かを堪えているようにじっと、黙ったままその場に立っていた。私はソファから起き上がり、男の子に近寄ると、男の子は一瞬、ビクリ、と肩を震わせた。顔はあげなかったので、私は彼の顔が見える高さまで腰を降ろした。
黒髪に青い瞳。ひょっとすると、母親は外人かもしれない。つまりは、ハーフかもしれない。しかし、この歳の子にしては痩せ型で体が小さく感じる。何より、服はよれていて、髪も延び放題。体に傷痕らしきものは無いが、子育てを放棄されていたのは見るからに明らかだ。
私の実家は少々財力があり、私と旦那は3才離れていて、私がこの子供と同い年の時に婚約し、私が16才の時結婚したのだった。つまり、今、私は24才で、旦那は27才だ。
私自身も名の知れた翻訳家として働いているためある程度の財力がある。なので、この子供を養っていくには私一人でも充分この子供を養うことができるわけだ。
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