名前は?

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名前は?

 「はじめまして。」 と、挨拶をし、男の子の様子を見てくる。  「は、はじめ、まして…。」  辿々しく小さい声だが、挨拶がしっかりできる良い子だ。  「私は湯梨浜(ゆりはま) (すぐる)。スグルでいいよ。君は?何てお名前なの?」   私の質問に、  「…なまえ?」 と首を傾げて不思議そうな顔をする。  「ん?」  私はその様子に恐ろしいことを思ったが、それは無いと考え直し、言い方を変えることにした。  「あのね、お母さんやお父さんに呼ばれるときって何て呼ばれてるの?わかるかな?」  首をコク、と縦に振ったのを見て、少し安堵する。  「それを名前と呼ぶの。よろしければ、私に君のお名前を教えてくれない?」  「 」   これは、名前じゃない。  私は傍に控えていた染山に声をかける。  「染山。」  「はい、奥様。」  「この子に名前は?」  「ありません。住民登録もされていません。しかも、戸籍上、この子は存在していないことになっております。」  「やっぱり…。」  あいつら、名前をつけなかったんだ。しかも、戸籍すらないとは…自分達の子供を無かったことにしようとしたのね。  「早急に取りかかるべき問題は山程ありそうね。因みに、私がこの子の名前をつけるのはあり?」  「えぇ。できますよ。」  「そーね…。」  私は男の子をじーっと見つめ、最終的には、この目を見て決めた。  「じゃあ、『青空(そら)』はどう?」  「…え?」  青空(そら)は不思議そうな顔でこちらを見た。はじめて私を見た。私はそのことが嬉しくて、にこっと笑う。青空(そら)はそんな私に対し、戸惑っていた。  「そ。君の名前は青空(そら)。君の目の色はとても綺麗。その目を見るとよく晴れた、きれーいな青空(あおぞら)を、思い出すの。」  私はふふっと笑う。  「あおぞらの青空(そら)…。僕の目、きれい?」  青空(そら)の目が不安で揺れる。  「もちろん、綺麗。」  「ほんとに?へんじゃないの?」  「変?そんなこと、ありえない。だって、素敵な色よ?綺麗と素敵以外、言うこと無いわ。ね?染山もそう思うでしょ?」  私が染山の方を見ると、青空(そら)も染山を見る。  染山は青空(そら)に近寄り、青空(そら)の目線と重なる高さまで腰を降ろして目を見つめる。  「そうですね。とても綺麗で素敵な瞳ですよ、青空(そら)様。」  染山はニコニコと青空(そら)に微笑みかける。青空(そら)はキョロキョロしながら、私と染山を交互に見ると、目をキラキラさせて、  「なまえ、そらです。」 と。どうやら、気に入ってくれたようだ。  「青空(そら)ね。これから、よろしくね。」  「う、うん。」  まだまだ問題はたくさんあるようだが、ひとまずクリアかな。  
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