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だっこ?
「さーてーと、んー?どっちが先かなぁ…。」
私は青空の手をにぎにぎ触りながら考えていた。
「青空様のお食事か、お召し物が先か、ということですね。」
「染山さん、よーく、お分かりでー。」
そうなのです。名前がクリアしたあと、ご飯が先か、洋服を買いに行くのが先か悩んでいます。時間は朝の10時頃。
「旦那様とお食事はされたかと…。」
「え?そうなの?」
「はい。…奥様の仮眠中に。」
「あぁ…。そんなことも。」
昨日は急ぎの仕事が入って集中して朝方までやってたからな。
「それで?しっかり食べた?」
「そうですね、半分召し上がられたようにございます。」
聞けば朝は定番の和食だったようだ。旦那の好みが和食だからだ。大人一人前と同じ量を出されたらしい。
「ふむ。足りたかね?お腹すいてる?」
「ううん。」
青空は高速で首を振る。あまりにも振りまくっているので、思わず、
「取れそう。止めないと。」
と、ガシッと頭を掴んで止めた。
「奥様…。」
染山は私を少し睨む。見ると、青空が驚いて固まってしまったようだ。なんとなく悪いな、と思って、
「ごめんごめん。あまりにも早く首を振るから首が取れちゃうと思って…。」
と言いながら頭を撫でる。撫でると方針状態だった青空は、ハッとして意識を取り戻した。撫でられることに慣れていないようで目をキョロキョロと忙しなく動かしていたが、特に抵抗することもなく大人しく撫でられている。
「だからと言って、首を急に止めるのは危ないですよ。」
「はーい。ごめんなさい。」
あー、染山に怒られた。青空にも悪いことをした。これからはしないようにしよう。
「青空様。首を横に振るときは2、3回くらいでいいんですよ。相手に伝わればいいのです。」
私を睨んでいた染山は、青空に微笑みかけながら教えていた。
「うん。わかった。」
と、青空はコクコク、と首を2回縦に振る。
「よくできました。それで充分伝わります。」
と、染山に誉められた青空は、少し恥ずかしそうにモジモジと視線を動かす。染山はその様子を見ながらニコニコしている。因みに、私だけ除け者である。若干不服だが、自業自得だな、と思い直すのであった。
「…よし、青空。」
「な、なに?」
青空はオドオドしながら言う。
あちゃー。さっきのことがトラウマになってるかも。本当にごめんなさい…。
気を取り直して、
「今から私と出掛けよう。」
と、ニコッと青空に笑いかける。
すると、
「おでかけ?」
と、言った青空の目が大きく見開く。その目はキラキラと眩しい光を放っていた。
私はその様子を見て満足し、青空を、ひょい、と抱き抱える。すると、青空は私の腕の中でジタバタと暴れだした。
「わ、わわわっっ。」
「危ないでしょー。暴れないの。」
そういうと、
「な、なに、これっ?」
と、ジタバタと暴れなくなったが、目を大きく開きながら何とも言えない驚きを口で表現する青空。
『“何これ“ってどいうこと?』
私は青空の一言に引っ掛かりを覚える。
「青空?どうしたの?」
「わ、わかんない。…これ、なに?はじめてしてもらった。」
「!」
そうか、暴れたのはそういうことだったのか。まさか、今まで抱き抱えられたことがないとは…。
「青空、これは“だっこ“って言うの。」
「だっこ?」
「うん。一種の愛情表現。」
「あいじょうってー?」
「んーとね、大好きってことかな?」
「だいすき?」
「うん。ぎゅーって優しく抱き締めて大好きって伝えるのを、だっこ、って言うの。」
多分だけどね。私は少なからずそう思ってます。
「ぎゅー…。」
「…ねぇ、青空はだっこされるの嫌?」
青空は目をパチクリと動かして、
「ううん。いやじゃない。」
と、首を2、3回振ると、ぎゅーっと青空から抱き締められる。
「これ、すき。」
と。私の胸に顔を埋めて言うのだ。
「そっかー!これからはたくさんだっこするね。」
私はニコニコと上機嫌になる。
「…う、ん。」
私は更にぎゅーっと抱き締めてくる青空に優しくぎゅーっと抱き締め、背中を優しく、トン…、トン…、と叩く。
私の服が青空の涙で濡れ、肌に張り付いてくる感覚を胸に感じながら、時々聞こえてくる鼻をすする音を聞いては思うのだ。
どうか青空が声をあげて泣ける場所になれますように、と。
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