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大切
青空が落ち着いたあと、私達は洋服屋さんに買い物に来ていた。あれやこれやと青空に試着をさせ、青空に似合うものを買って店を出た。
「青空、手を繋ごう。」
「う、うん。」
青空がおずおずと出した手をぎゅうっと優しく繋ぐ。私は青空と手を繋いでご機嫌だ。すると、
「あの…」
青空は少し遠慮がちに私に声をかけてきた。
「なぁに?」
青空は私を見て、
「なんで、あんなにたくさん、かってくれたの?」
と、ばつの悪そうな顔で言った。
「ん…?似合うから?」
私は不思議に思いながら理由を口にする。
すると青空は驚いた顔をして、
「そ、それだけっ?」
と、すっとんきょうな声をあげて言うのだ。
「うん。なんで?」
「べ、べつに。」
今度は慌てた様子でそっぽを向く。
「?」
一体何が知りたかったのか。子供の考えてることはよくわからない。いや、そもそも私は人の考えていることがよくわからない性質だ。子供に限ったことではなかった。
暫くしてまた青空が聞いてくる。
「ねぇ、」
「うん。」
今度は何を言い出すのだ。変わらずそっぽを向いたままだが。まぁ、煩わしいわけではない。ただ、答えられなかったら癪だな、と思っているだけだ。
「…かわなかった?」
「へ?」
何を?何か私、見逃してしまったのか。青空が欲しいものとは…オモチャ?ゲーム?お菓子?ジュース?…わからない。
「ふく、そらが、にあってなかったら、かわなかった?」
因みに、私が悩んだタイムはたったの3秒だけ。すぐに青空が答を出したからだ。えー、あいにく私が考えていた事では無かったので、少し拍子抜け。
「…あぁ、なんだ服のことか。」
「うん?」
「ナイショ」
「…」
暫く沈黙が続く。これは私が答を出すべきことだな。少し考えてみた。本当に青空の言うように似合わなかったら買わなかったのか。…いや、考える必要なんて無かった。こんなの、当たり前の答えだ。
「YESかNOかで言えばって話だよね?」
「…え、えと、うん。」
「なら、簡単だ。答えはNOだな。」
「なんで?」
「あれ?YESかNOじゃないの、これ。」
「なんで?ねぇ、なんでっ?」
「…」
なんでなんで攻撃。
私は一呼吸置いて、青空の目線まで腰を降ろしてしゃがむ。
「そんなの青空が必要なものはいくらでも買うに決まってんじゃん。青空は私にとって、大切な人なんだから。」
「た、たいせつ?」
「そ。理由なんてないんだよ。ただ、大切だから甘やかしたくなるんだよ。子供はもっと、ドーーーンッッと大人に甘えなさい。それが子供の仕事だ。覚えとけ。」
「う、ん。」
青空の目がキラッと光る。私は反射的に青空を引き寄せて抱き締めた。
こんなに人を愛しいと思うのは初めてだ。いくらでも優しくしたくなるし、私ができることはなんでもしてあげたくなる。不思議だ。今だってそう思ってる。なんでこんなに大切なんだろうね。まだ、たったの数時間しか一緒にいないのに。
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