大切

1/1
前へ
/9ページ
次へ

大切

 青空(そら)が落ち着いたあと、私達は洋服屋さんに買い物に来ていた。あれやこれやと青空(そら)に試着をさせ、青空(そら)に似合うものを買って店を出た。  「青空(そら)、手を繋ごう。」  「う、うん。」  青空(そら)がおずおずと出した手をぎゅうっと優しく繋ぐ。私は青空(そら)と手を繋いでご機嫌だ。すると、  「あの…」  青空(そら)は少し遠慮がちに私に声をかけてきた。  「なぁに?」  青空(そら)は私を見て、  「なんで、あんなにたくさん、かってくれたの?」 と、ばつの悪そうな顔で言った。  「ん…?似合うから?」  私は不思議に思いながら理由を口にする。  すると青空(そら)は驚いた顔をして、  「そ、それだけっ?」 と、すっとんきょうな声をあげて言うのだ。  「うん。なんで?」  「べ、べつに。」  今度は慌てた様子でそっぽを向く。  「?」  一体何が知りたかったのか。子供の考えてることはよくわからない。いや、そもそも私は人の考えていることがよくわからない性質(たち)だ。子供に限ったことではなかった。  暫くしてまた青空(そら)が聞いてくる。  「ねぇ、」  「うん。」  今度は何を言い出すのだ。変わらずそっぽを向いたままだが。まぁ、煩わしいわけではない。ただ、答えられなかったら癪だな、と思っているだけだ。  「…かわなかった?」  「へ?」  何を?何か私、見逃してしまったのか。青空(そら)が欲しいものとは…オモチャ?ゲーム?お菓子?ジュース?…わからない。  「ふく、そらが、にあってなかったら、かわなかった?」  因みに、私が悩んだタイムはたったの3秒だけ。すぐに青空(そら)が答を出したからだ。えー、あいにく私が考えていた事では無かったので、少し拍子抜け。  「…あぁ、なんだ服のことか。」  「うん?」  「ナイショ」  「…」  暫く沈黙が続く。これは私が答を出すべきことだな。少し考えてみた。本当に青空(そら)の言うように似合わなかったら買わなかったのか。…いや、考える必要なんて無かった。こんなの、当たり前の答えだ。  「YESかNOかで言えばって話だよね?」  「…え、えと、うん。」  「なら、簡単だ。答えはNOだな。」  「なんで?」  「あれ?YESかNOじゃないの、これ。」  「なんで?ねぇ、なんでっ?」  「…」  なんでなんで攻撃。  私は一呼吸置いて、青空(そら)の目線まで腰を降ろしてしゃがむ。  「そんなの青空(そら)が必要なものはいくらでも買うに決まってんじゃん。青空(そら)は私にとって、大切な人なんだから。」  「た、たいせつ?」  「そ。理由なんてないんだよ。ただ、大切だから甘やかしたくなるんだよ。子供はもっと、ドーーーンッッと大人に甘えなさい。それが子供の仕事だ。覚えとけ。」  「う、ん。」  青空(そら)の目がキラッと光る。私は反射的に青空(そら)を引き寄せて抱き締めた。  こんなに人を愛しいと思うのは初めてだ。いくらでも優しくしたくなるし、私ができることはなんでもしてあげたくなる。不思議だ。今だってそう思ってる。なんでこんなに大切なんだろうね。まだ、たったの数時間しか一緒にいないのに。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加