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そうじゃない!
湯梨浜鬱切とは、書類上の私の旦那であり、昨日、青空を連れてきた、青空の正真正銘の父親である。
……私が何の根拠があって、そう言い切れるのか。
それは、現時点での情報を集めた所、湯梨浜鬱切が秘密裏に青空のDNA鑑定をしていた事実が判明した。だから、湯梨浜鬱切が青空の本当の父親なのは確かなことだとわかったのだ。
しかし、何故か母親だけがまだわかっていない。今も捜索中である。
「……現時点での報告ではそれしかわかっていない。」
私が報告内容をそのまま二人に伝えると、二人は神妙そうに頷いて報告内容を反復していた。
「それは、鷹からの情報筋なんだろう?」
私は黙って頷く。
「…そうなのね。」
母は静かに呟いた。
ここで、補足だが、佐紀家の情報屋の鷹は、一時間もあれば、全ての情報を見つけ出す、優秀な情報屋である。
……だが、その情報屋が、青空の母親を特定するのに、珍しく難航している。
だから、青空の母親を見つけるのは相当な時間を有するだろう、と私は考えていた。
……できれば、青空が高校卒業するまでには見つけておきたいところだ。
───もし、本当の青空の母親を見つけっちゃったら?
ふと、そんな考えが頭を過った。本物の青空の母親を見つけてしまったら、私は一体どうするのか……。
最悪、青空と離れる事になってしまうのだろうか?
……。
……たった数時間しか一緒にいないのに、なんで、こんなにも、大切なんだろう?
それこそ、情報屋が言ったように、普通は年数重ねていかないと大切に思えないだろうに……。
それに、情報屋の言っていた最後の一言が気になる……。
私が一人、悶々と考えていると、母が私を呼ぶ。
「───すぐるちゃん」
その声に思考の海に堕ちていた私は、ハッとし、
「うん?何?」
と、聞き直した。
すると、父が、神妙な面持ちで、
「……ただ呼んだだけだ。青空くんのことは俺たちに任せておけ。……それより、優は大丈夫なのか?」
と、聞いてきた。
私は何の事かさっぱりわからず、はぁ、と間抜けな返事をする。
先程から辛そうな表情でこちらを見ていた母は、
「っ、ごめんなさい……。」
と、一言、消えそうな声で。
──ごめん?どういうこと?
「……何が?」
目元を強く抑えている母は、私が困惑していることに気づいていないのか、
「……ふぅ。そうよね、やっぱり、こんな状況で大丈夫なわけないわ。
……あたしたちが急いでここに来たのも、本当は、あなたを家に連れて帰るつもりだったの…。」
と、話が勝手に進んでいく。そして、両親たちが本当にここに来た理由に驚いた。
──確かに、訪ねてくるのが当日の夜とか、早すぎると思っていたけど。
なんせ、私が両親に家に訪ねてくるように便りを送った内容には、″一週間後にお会いしましょう″、だったのだから。
まぁ、事も伝えていたから、仕方がないのかと思っていたけど、まさか、そんな想いで訪ねてきていたなんて……!
「……」
私が何も言わずに黙っていることが、肯定と捉えられたのか、
「…ごめん、ごめんなさい!…こんな事になるってわかっていたら、あたしがもっと早く、あなたの事を佐紀家の戸籍に入れていたのに……!!こんな、……っぅ。そしたら、あなたと離れることもなく、湯梨浜鬱切さんと結婚さられることも無かったのに!でも、まさか、まさかっ……湯梨浜鬱切さんが不倫してできた子供を連れて帰ってくるだなんてっ!全部あたしの責任だわ!」
と、母はとうとう、涙を流し、自分を責めてしまった。
私が、その様子に誤解だと伝えようとすると、
「……いや、母さんのせいじゃない。むしろ、俺のせいだ。あの時、俺に何の力もなかったせいで、優をうちに来てすぐ戸籍に入れることもできなかった。今ぐらい、篠山家を牽制するだけの力があれば……。……あわよくば、潰せていたら…こんなことには……。すまない、俺のせいで優の人生を狂わせてしまった……!!」
と、今度は父まで自分を責めてしまった。
私は慌てて二人に、
「待って!父さんっ、母さんっ!誤解!むしろ鬱切の不倫はどうでもいい事なの!私は、青空の事を考えていたの!」
「「……うぅっ……えっ??」」
と、二人は私の言葉を聞いて固まってしまった。
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