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ここはハテノ市なの。
どんなことでもあり得る街。
日本海に突き出した半島の先にある、過疎に悩む地方都市。
日本の果てにある街として名づけられた。
これは偶然。
そして地球という星があるパラレルワールドの、最も果てにある街。
世界は1つだけではなく、少しづつ次元軸をずらして無数に存在する。
そこには日本も、東京も、私も、ありとあらゆる物が少しづつ違った形で存在する。
もし地球に次元を超えてやってくる何かがトラブルにあった場合、トラブルを解決できなかったら必ずこのハテノ市に流される。
宇宙人、異世界人、超能力者、怪獣などなどが住む。
彼らを専門に教える魔術学園もある。
これは運命……?
なのに、まるで私の存在が間違いみたい。
中学2年の14歳女子、佐竹 うさぎ。
そして巨大人型ロボット、バーニング・エクスプローラー型2号機のウイークエンダー・ラビットの。
頭は鉄骨で防弾ガラスを囲い込んだ、いわゆるキューポラ。
足が膝を後ろにした逆関節なのに人型と言うのはどうなのか。
それはともかく。
赤い全高50メートルロボットが歩きまわれる、木造建築を想像できる?
私は今日までできなかった。
不安で心臓がバクバクする。
灰色のパイロットスーツと頭全体を覆うヘルメットに、汗の匂いがキツい。
外は秋晴れ。
こんな時でなければ、すごく清々しくなれそうな、ぬけるような青空。
けど聞こえるのは重なってこだまする大砲の音。
内は長い年月を得たと感じの、黒ずんだ木の空間。
わずかに上り坂になった床板は重量1,500トンを支える足の裏より大きい。
ウイークエンダーの足は膝が視界を邪魔しないからよく見える。
柱は、ボクサーのように顔と胸の前でかまえてる腕よりも太い。
歩くたびに廊下がきしんで、山崩れのような音がする。
そう、どこかの小学校の廊下にしか見えない。
床、壁、天井がひん曲がってわれてるけど。
壁には一年生から六年生と日本風の名前作品が並んだ、絵や習字が貼られていた。
作文もある。たしかに日本語だ。
あの絵は運動会?
あっちの習字は希望とある。
窓にはめられているのは、家より大きなガラス。
その窓の向こうでゆれるのは、背の高い雑草じゃない。
赤や黄色に色づいた森の木々たち。
そう。
この学校(?)は、この地方特有のなだらかな山から隣の山にかかった橋の姿で止まっている。
学校がじつは宇宙船だったとしても、もう飛び上がることはないだろう。
元は一辺が1500メートルほどの二階建て学舎がL字につながっていたみたい。
すべての屋根には黒い瓦がのってる。
私の後ろ、校舎をぬけて渡り廊下をわたると(寸断してるけど)体育館の巨大な姿。
前には右への曲がり角。
その曲がり角が高い方の山頂にのっており、土砂くずれを起こしていたんだ。
山の中とは言え、谷間には道路が走ってる。
渡り廊下は、その道路の真上でぶら下がっていた。
人が巻き込まれなかったのは、不幸中の幸いね。
ここはそうでもないけど、山の向こうでは通行止めのため警察がおおわらわ。
それにしてもこの巨大学校。やってきた、というより流れ着いた感じがする。
私がいる体育館側の校舎の一階。
後ろに、さっき大ジャンプで伸び込んだ玄関がある。
敵を追って、思わずジャンプして飛び込んだ場所。
大きな靴箱にぶつかり、中身をぶちまけてしまった。
うち履きと外履き、それに長ぐつがあった。
全部で20人分ほどだと思う。
ここへくる前に、みんなで祈りを捧げてきた。
「祈りを捧げます……。
天にまします我らの父よ。
願わくば御名を崇めさせ給え。
御国を来たせ給え。
御心の天なる如く、地にもなさせ給え。
また、このハンターキラー達が無事職務を全うする事を導き給え。
良き事をするための力と知恵と勇気を授け給え。
この日の終わりには貴方に仕えるハンターキラーを此処にお戻し下さい。
どうぞ、この祈りを聞き入れ給え。
アーメン。
神はあなた方と共にある」
ハンターキラーとは、いわゆる怪獣の中でも強力な捕食者であるハンターを狩る者。
ハテノ市には次元を超えてたくさんの怪獣が現れるから、街の基幹産業になった。
だけど、祈りを述べた私自身が情けなくなる。力も知恵も勇気もわかない。
取りあえず背中のコンテナをせり上げる。
大きなトラックが載せるようなやつ。
中身は航空機も撃ち落とすレーザー砲。
それと、2連装した10式戦車でおなじみの120ミリ砲。
当然、各自の判断による自由射撃の許可は下りている。
ハテノ中学校も休んでいいんだよ。
これは政府から出た正式なもの。
でなければ、かつての特務機関プロウォカトルが解体されたあとも、予算を割いてくれるわけがない。
私たちのハンターキラーとしての稼ぎを足しても、稼働率は週2日だけどね。
今回は120ミリ砲で行こう。
プロウォカトル司令部に通信。
「こちらウイークエンダー・ラビット。
魂呼さん。前方の敵に、あきらめなさい。もう逃げ場はないよ、と伝えてください」
ヘルメットにひびいた私の声は、恩人に語りかけるには思ったより低くて、感情がなかった。と思ったけど。
『こちらスリール・スクレット』
魂呼さんからの通信だ。
スリール・スクレットは、彼女の機体。
つまり、司令部と同じ意味。
『了解。諦めなさい。もう逃げ場はないよ。と伝える』
帰ってきた女性の声には、さらに感情がなかった。
返信のあと、しばらくの沈黙。
『こちらスリール・スクレット。
ウイークエンダー・ラビットへ。伝えた』と返ってきた。
機械の右腕を一瞬大きく前後させる。
そして、装甲の下に隠していた円筒形を角の向こうへ。
ドラム缶くらいの大きさのそれは、狙いどうりに角の向こうへ飛んだ。
その先で中の火薬を燃やす。
強烈な光と爆発音!
スタングレネードを投げつけたんだ。
相手の目と耳を、限界をこえたショックで使えなくする。
悲鳴が聞こえた。
聞こえだと言うのはおかしい。
でも明らかに恐怖を感じた人から放たれたとわかるもの。
私が魂呼さんに頼んだものと、同じものが空間を満たしてる。
言葉の代わりに意思を直接相手に伝えるテレパシーだ。それを使う種族の、悲鳴が。
同時にスタングレネードの光に向かって無数の青い光線が飛んだ!
壁が爆発する。穴だらけになる!
撒い散る爆炎の中に、白く光り輝く人影が駆けこんだ。
巨大な、ウイークエンダーと同じくらいの。
知ってる。ムゲンナルという異星人だ。
全身を、光そのもので形作り、光が反射すればするほどエネルギーに変えられる。
光は彼らにとって血と同じもの。
全身を反射して、暗い廊下でも眩しい。
カットされたダイヤモンドを思わせる全身は鎧のよう。
だけど、関節は伸び縮みするから、布のようにも見える。
その体重は30,000トンにもなる。
それでも私たちが戦える要素がある。
彼らは地面にめり込まないため、常に重力を操作して浮いているということだ。
つまり、立ってるだけで重力を操作するエネルギーをつねに消費する。
その手からは、光線と同じ青が、まっすぐな剣となって握られていた。
彼らは自分の体を切り貼りできる。痛いことは痛いけど。
切った体には光を込めることで、あの剣や光線のような武器にできるんだ。
振り回される剣は、横にあるガラスだなやドアを、次々に斬り刻む。
高熱をもつため、その切り口は赤く焼けた。
でももう、目は見えなくなってるんだろう。
木の壁や床が刻まれて散り、銀色の裏地(?)があらわになる。
やっぱり、この学校は宇宙船なんだ。
「もう逃げ場はないって、言ってるでしょ! 」
120ミリ砲を放つ!
同時にウイークエンダーを走らせる。
私たちは今、普通の人間のおよそ30倍のサイズで戦っている。
その巨体に対して120ミリなんか4ミリ以下だ。
それでも、衝撃で気を引くには十分。
せめてダメージを与えないように、硬い骨が集まる、肩を狙う!
2つの砲弾は狙いどうり炸裂し、ムゲンナルはよろめいた。
剣は止まった。でも倒れるほどじゃない。
そこに山崩れの音を、さらに激しく響かせて、廊下のわれめをとびこえる。
体重差にして15倍。
でも、体重60キロの人に4キロの鉄の塊がぶつけるところを想像してみれば良い。
狙いは、意識の中枢をゆらし、気を失わせる場所。
私は振りかぶり、グローブ装甲をかぶせた右拳で、ムゲンナルの頬を打った!
空気がゆらぐほど、ふっ飛んだ。
そして相手は、自分が切り捨てたガラスだなを巻き込み、床に倒れる!
そのまま、必死に立ち上がろうとしているけど、それは叶わない。
私はその事を報告して。
それから、目の前のムゲンナルに、「治療も運びだすのも、しばらくはできない」と伝えるよう頼んだ。
それしかできない、自分が情けない。
……改めて見ても、ムゲンナル……よね。
それにしても、たなと一緒に撒き散らされたのは優勝旗らしい立派な旗。金色のトロフィーや盾。
あまりのリアルさに、目を疑ってしまう。
でもニセモノだとしても、わざわざ日本語まで書いて、再現する理由って……?
『うさぎ、そこにーー学校にいるのか?! 』
男の子からの通信だ。ハレハル?
『気を付けろ! 1人そっちにーー』
仲間の声は、外からの破壊音によって断ち切られた。
今倒したムゲンナルが隠れていた方向。
右側から突き当たりに教室があり、左側に窓のある廊下。
振り向くと、左にある窓と壁がブチ抜かれ、新たな巨人が飛び込んで来た!
くすんだ影だった。
粗削りした石かコンクリートを思わせる、ゴツゴツした黒い体。
私に向ける目が、黒地に光を反射してる。
手にした刀もそう。
反りがあって、日本刀そっくり。
彼らはタイリナル。
ムゲンナルとは同じ星、ルークス星で生まれた、光をエネルギーにする似た種族。
だけど、彼らは黒い表面で光を吸収する。
その時、足をつかまれて止められた。
さっきのムゲンナルが、倒れたまましがみ付いている!
でも、2つの種族は領土問題を抱えていて、ずっと戦争状態だって、聴いてたのに。
「『卑怯だぞ! 」』
なぜか、私の声と外からのスピーカー越しの声が重なった。
同時に近づくのは、地面に吹きつける風が木々を押しのける音。
その風で重い物を運ぶ音。
ホバークラフトの音!
『プロウォカトル流銃剣道、火篅! 』
私とあった声の持ち主だ。
火篅とはカセンと読む。
いわゆる火矢で、相手を焼く矢をしめす。
その名の通り、外からの砲撃が雨あられと打ち込まれた。
続いて、ホバーの音を高鳴らせて、緑色の塊がとびこんだ!
ホバーの排気を使い、まるでドリルのように回転しながら、タイリナルに突っ込む!
タイリナルは顔の前で刃をかまえた。
けど勢いは止められない。右の壁を破っていった。
足元から、あの背筋の寒くなるテレパシー、悲鳴が湧き上がる。
私はしがみつく彼を、アゴをかかとで蹴り上げて逃れた。
壁をブチ抜いた緑色の塊が、二筋のホバーを巧みに使い、降り立つ。
ホバーが一つづつ付いた、ぶっとい足。
こっちは膝を前にした、本物の人型。
頭もキューポラなんかじゃなくて、カッコよくデザインされてるし、首も動かせる。
その方が、視線で相手にメッセージが出せるんだって。
ピド・ファランクス。
ウイークエンダーと同じバーニング・エクスプローラー型3号機。
主武装は、両手で構えている自動小銃その物の、全長39メートルの銃剣付き機関砲。
それと背中から左手側に伸びたサブアームで支えられた、全身を隠せる巨大な四角い盾。
パイロットは、大谷 靖春。
私の同い年の幼馴染で、頼もしい味方!
「ハレハル! 」
ムゲンナルの手を振り払って、そう呼んだ。
『だーかーらー。ヤスハルと呼べ!
それより、あのタイリナル! 来るぞ! 』
ピド・ファランクスは盾を床に打ち付け、銃剣を体ごと後ろに引いた。
私も構えながら、タイリナルが突き破った部屋を見てみる。
教室じゃない。
大きなスチール製……に見える机がいくつも押し退けられ、パソコンや書類が散らばっている。
職員室らしい。
その中で、タイリナルは立ち上がり、再び刀をかまえた。
刀は赤、青、白に色を変える。
色とともに輝きも増していく。
高熱になっていくんだ。
だけど。
黒い剣士はかまえたまま、右へすり足しする。
『……何のつもりだ? 』
多分、あの人だよ。
曲がり角のムテキナル。まだ倒れたままの。
倒れた場所のすぐ手前には、2階に続く階段がある。
だけど、誰も降りてこない。
センサーにも何もない。
「行かせてあげようよ」
私は曲がり角を指でしめした。
ハレハルは構えはそのままタイリナルに向けるけど、襲うのは止めたみたいだ。
でもタイリナルには分からなかったみたい。
それとも無視されたのかもしれない。
とにかく、かまえを解かないし、すり足の速度も変わらない。
職員室の横開きトビラを開けて、ムテキナルに寄る。
そして怪我をした仲間を担ぐと、角の向こうに下がっていった。
あっちの奥は、体育館だったね。
『そうか。奴らの後を追えば! 』
そう多分、敵の本拠地。
でも私たちが姿を見せれば、必ず猛反撃される。
あの連中が、私たちへの世界への侵略者。
それが分かるのは2人の通報者が知らせてくれたから。
1人はトップの座を追われた古強者。
もう1人は一般兵で、努めて相手を攻撃しないよう、頼んでいたっけ。
さて。監視を申請しよう。
「こちらウイークエンダー・ラビット。
一階廊下を体育館へ移動する敵を確認。
確認できますか? 」
返信はすぐに来た。
『こちらブロッサム・ニンジャ。
確認しました』
さすが私の妹。佐竹 しのぶ。
ブロッサム・ニンジャはバーニング・エクスプローラー1号機。色は青。
ウイークエンダーより古いだけあって、さらに人型じゃない。
ただし火力は高いよ。
両うでは大砲。
右腕は砲弾を電磁気で飛ばすレールガン。
左腕にはレーザー砲。
背中にはミサイルとバルカン砲。
その性能は、私がここに来るまでにも大いに発揮してくれた。
背中からセンサーを満載したマストをあげる、火器管制システムも強力だよ。
『2人見えます。
ウイークエンダーとピドを警戒しながら、いま、体育館に入りました! 』
この学校の1番下。
谷間に壁をめり込ませた場所だ。
『そこが奴らの本拠地か』
あなたも感謝しなさい。
ハレハルは、自分が開けた大穴から右手をだし、親指を立ててくれた。
うん。よろしい!
『こちらスリール・スクレット。
ウイークエンダー・ラビットとピド・ファランクス。その場で橋頭堡を築け。
キャナル・コンケッタを合流させる。
いよいよ決戦の準備だ』
『「了解』」
『それと、脱走者の一人が協力してくれる。
突入前に最後の説得を試みるそうだ。
充分、留意してくれ』
『「了解』」
ハレハルは廊下の突き当たりに銃剣を向け、盾を床に打ち付けた。
まだ、何が隠れているか解らない方に。
でもピドの構造だと、右半身を盾で守れないよね。
そこに、ウイークエンダーの背中をよせる。
右半身を曲がり角に向けて、右拳を前へ。
左拳はコクピットのある胸へ。
すぐ踏み出せるように、ひざを曲げて。
当然、警戒は曲がり角以外のところもおこたらない。
職員室も見張る。
その向こう。窓の外は、崖の上。
重要な任務なのはわかる。
だけど私は、どうしても聞きたいことがあるんだ。
私たちのロボットは、しゃがんだ状態から乗り込みやすいように、腰の後ろに入り口がある。
そこには外を見るための監視カメラと照明がある。
こういうハッチとハッチが近づいた時のため、私たち現場のパイロットは秘密の暗号を決めたんだ。
これはいまだに、魂呼さんにもバレてない。
相手の照明が3回光ったら、自分も3回光らせてハッチから顔をだす。
私の光にピドは、照明を3回光らせた。
ハッチへ急いだ。
ハッチを開けると、ヘルメットを取った。
機体からは、肌を震わすような重低音。
でも、話ができないほどじゃない。
普段は胸まで伸ばしてる髪を後ろでひっつめてきた。熱い風が首に心地いい。
普段といえば、頭の上の編み込みもほどいてきた。
後で汗を流す時、面倒がないからね。
帰還を望むための、ちょっとした願かけだよ。
ハッチの高さはおよそ20メートル。チト怖い。
ピドのハッチとは10メートルほど。
そのハッチが、空いた。
「そんな目で大技キメたの? 」
おどろいた。
「そうさ、すごいだろ」
サッカーで日焼けた顔に、ヤンチャな瞳が輝いている。
大谷 靖春は中2になっても相変わらずだね。
「うん。すごい!
でも、本当に後悔はないの? 」
私はそう言って自分の左目を指さした。
今日のハレハルは、左目のまわりがとくに黒い。
殴られた跡だ。
「気にすることないさ!
これまで全く招集に応じなかったのに。
それで興奮しただけだろう! 」
そうはいっても……。
ハレハルの目はお父さんにやられたんだよ。
お母さんからは頭のタンコブ。
うちは、お父さんがプロウォカトルの職員だから、そんな心配はない。
そして今は怪獣料理のファミレスをやってるから、戦わないとお金が入らない。
お母さんは謹製のアンドロイド。
間違いじゃないです。100パーセント機械。
今は雷切という輸送機にのって管制をしてる。
一方、ハレハルは遠くの街で一般会社員の養父母と暮らしている。
……どんな感じなの?
「まあ、気持ちはわかるよ。
俺たち、赤ん坊の頃からこの仕事のために育てられたんだから。
それから解放したいと思うんだろう」
一流のバイオリン奏者を育てようとすると、小学生の頃始めても遅い。
2歳や3歳から始めると、骨格の成長までコントロールできるらしい。
私たちもそういうものだと思ってたけど。
どうしても,やらされた,になってしまう。
そんな彼がふるえだした。
「帰るのが怖い。うさぎ、お前のうちの子になってもいいか? 」
「嫌よそんなの! 」
まずいでしょ! 若い男女が1つ屋根の下なんて!!
まあ、それは腕っ節で解決できるからいいとして。
「殴られるのが分かってて、そんなに必要でもないのに来たの? 」
この質問には、まあまあ落ち着いて答えてくれた。
神妙な面持ちってやつ。
「まあ、人によっては忖度、と言えなくもないかな。
だって魂呼さんがお母さんの故郷のために働けるのって、こういう時だけだから」
わかるよ。
魂呼さんみたいな年上女性が好きなんだ。
全くかわいいな……。
私たちがムゲンナルやタイリナルを知ってるのは、魂呼さんのお母さんがムゲンナルだから。
20年前に起こった超常現象大量発生現象、バースト。
それに触発されてやってきた異星人たちの中に、ムゲンナルもいた。
地球からルークス星に行った人はいない。
腹立たしいことに、地球とはやり取りそのものがない。
地球はもともと戦争だの紛争だのが多かったのが、バーストのあとは完全に危険な惑星ということになったから。
魂呼さんは赤ん坊の頃、地球におき去りにされたんだ。
フルネームは落人 魂呼。
お母さんがムゲンナルで、お父さんが地球人。
人間は遺伝にDNAを使うけど、ムゲンナルは当然ちがう。
でも、科学者で魔術学園の理事長でもあるお父さんは、ことなる生物をマッチングする技術を確立した。
それで、魂呼さんが産まれたのは間違いない。
だけど、言ってしまえばそれだけ。
お母さんは育児など一切しなかった。
魂呼さんを実験動物と思っていたのか。
そもそも母親になるというイメージがなかったのか。
本当のことは私は知らない。
地球に現れる怪獣を退治するのに、明け暮れていた。
そしてその最中に、魂呼さんが赤ちゃんだったころ、亡くなった。
でも、お父さんは本気で好きだった。
魂呼びの意味を知ってる?
死んだ人の魂を呼び戻すため、死んだ人の名前を叫ぶ風習の事。
母親の魂だけでも呼び戻したいんだ。
一方の魂呼さんは、成長してお母さんと同じ道を歩み始めた。
支援する特務機関もある。
プロウォカトル内での呼び名はバーニング・エクスプローラー。
バーニング・エクスプローラー型のネームロボならぬネームレディってことね。
私たちの乗るロボットは、魂呼さんのサポートや、予備部品として進化したんだ。
それより巨大なディメンション・フルムーン型だってあるし、さらにそれらを空輸する飛行戦艦、雷切まである。
でも、それが大きな過ちを犯した。
魂呼さんは両腕を失った。
あの頃は、私は祈ることさえ知らなかった……。
「おい。きたぞ」
ハレハルに言われた。
あいつは、もうヘルメットを被ってハッチを閉じている。
本当だ。地面が揺れている。
ウイークエンダーやピド・ファランクスより重い者が、山の向こうからやってくる。
コクピットに戻ると、その茶色い装甲の持ち主が廊下に上がってきた。
人型、というより、拳と足で体を支えるからゴリラみたい。
それは地上だけではなく、深海で水圧に耐えて活動するため。
重量はウイークエンダーの5割増し。
2.700トンまで引き上げた。
バーニング・エクスプローラー型5号機。キャナル・コンケッタ。
もう直ぐ決戦だ。
『シ〜。まずはもっと近づいて』
と思ったら、パイロットの名船 夜鶴は思わぬことを言ってきた。
その中3女子は、私たちが近づくと、その巨大な腕で包みこんだ。
ハグ?!
違った。
キャナル・コンケッタの胸の装甲が開いていく。
太陽に近い核融合炉と、魂呼さんからもらった技術の融合体。
無限炉心のフタが。
腕は外からの視線を防ぐためなんだ。
胸からほとばしる、白くまばゆい光。
センサーによると、8000度だった。
これは太陽の表面より熱い。
その周りには、魂呼さんからクローニングした細胞。
ムテキナルと同じ、光反射発電を行うの。
熱に追いやられた空気が、熱風となって渦を巻く。
その光の中に、影がある。
人影だ。
なんとも可憐な美少女だった。
髪は白。綺麗にカールして首元まで触れていた。
伏し目がちに、不安そうに右手で左の二の腕をつかんでる。
ダークカーキ色のマウンテンパーカ。
それと黒のレギンズは長すぎて端を折ってる。
この服も擬態に違いないけど、おおかた魂呼さんの服をそのままコピぺしたのね。
ブカブカ。
……ミリタリールックじゃないですよ。おしゃれ用ですよ!
そして……。
『魂呼さんに、ソックリだけど』
『そんなの当たり前じゃない。タイリナルの擬態だよ』
ハレハルが聴いて夜鶴が言った擬態とは。
タイリナルもムテキナルも、そのからだを光を使って維持している。
その光を圧縮することで、自分に不利な環境でも耐える姿になる。
ムテキナルとタイリナルが共通して持つ能力なの。
もともと彼らの住む惑星は大気が乏しく、彼らの太陽の光がストレートにとどく。
ひるがえって地球では、分厚い大気圏によって太陽の光が弱められる。
タイリナルでもムゲンナルでも、元の姿のままなら3分と持たないだろう。
私たちに例えれば、海底で戦うような物だと思う。
姿形も、ある程度変えられる。
この子はそれがうまい!
魂呼さんに内気な妹がいたら、きっとこんなだろう。
全くかわいいな。
『この人はアリゼさん。
逃げだしたうちの一人で、一般兵の方』
夜鶴の声に、アリゼさんの肩が震えた。
……アレ? 無線の声が、聞こえてるのかな。
いや違う。テレパシーで私たちの不信感を感じて、おびえてるんだ。
それでも私たちの頭に{初めまして}のことばがうかぶ。
頭を下げてとテレパシーで言ってくれたんだ。
「キズとかはないの? 」
この人が山を駆け下りたことが、事件を発覚させた。
そのときは数人の仲間に追われていたけど、私の歌の先生に運よく救われたんだ。
{だいじょぶです}
夜鶴が説明を続ける。
『この人を体育館に連れていく。
そしてルークス人の目の前で説得してもらう』
{ルークス星人! }
これまでより強いエネルギー!
アリゼさんは驚きのテレパシーをだしたみたいだ。
『そ、それ、変なこと言いましたか? 』
夜鶴が聴くと。
{いいえ。そういう風に呼ばれたこと、なかったから}
そのあとも、{ルークス星人 ルークス星人}と、小さなテレパシーで流れ続けた。
気に入ったみたいだね。
『説得が失敗だとわかるまで、一切の攻撃はダメだからね』
夜鶴はそう言って、キャナルの装甲を閉じはじめた。
{待ってください! }
アリゼさんにとめられた。
キャナルの装甲も止まる。
{どうか、私のテレパシーを聞いてください!
私たちが何をしてしまったか、知っていただきたいのです! }
でも、そのことならもう資料にまとめられて、読んでる。
{それは、テキストを読んだり、言葉で聞いたことでしょう。
それでは私たちのことを知ったことには……。
いえ、私の気が済まないだけですね……}
それでも、彼女は少し考えて。
{あの、言葉やテキストよりは、時間がかからないはずです。
それに、相手の手の内を知るには、最も有利だと思います! }
ねばるねアリゼさん。
でも、それで良いんですか?
ほら。今も外から流れこんできます。
戦うムゲンナルやタイリナルたちの、悲鳴のテレパシーが。
その直後に、風が砲撃音を運んでくる。
そして新しい悲鳴があがる。
データリンクを見ればわかる。
ブロッサム・ニンジャ、私の妹のしのぶは、まず敵の足を撃って動けなくした。
その敵をエサに、助けにきた敵をまた撃っている。
妹だけじゃない。
弟のみづきも。
ブロッサム・ニンジャは精密狙撃するさいに、全身の関節を固定する。
当然歩くこともできない。
そこで弟のみづきが、ディメイション・フルムーンの背中に乗せて移動する。
バーニング・エクスプローラー以上のパワーを目指したディメンション・フルムーン型の1号機。
白い箱型のボディからだす4本足にキャタピラを付けて、山肌を問題なく走ってくれる。
8,789トンという、ウイークエンダーやブロッサムの4倍以上の重量。
ただでさえぶ厚い装甲の下には、爆砕シールドがある。
これは空気中に強烈な電流とマイクロ波を流すことで、空気をプラズマ化する物なの。
そのプラズマ化した、燃える空気を勢いよくぶつけることで、空中に装甲を生みだす。
今は必要がないけど、2本足の人型形態になれば全高は100メートルに及ぶ。
そんな私のきょうだい達でも、逃げるあいだは守りがうすくなる。
そのときは、柳田 八重さんのドライ・トレビュシュにおまかせする。
八重さんはハテノ高校の2年。
家族でやってる民宿とりにてぃで仲居をしているしっかり者。
ドライ・トレビュシュは黒いディメンション・フルムーン型の2号機。
4本足⇆2本足の変形機構をやめて、移動を下面全てをおおう4列のキャタピラにたよってる。
山肌を木ごと踏み砕く。
武器は両腕に3連装のレールガンを乗せた砲塔。
上面の前後に設置された小さな天文台のようなものは、レーザー砲。
そして1号機と同じ爆砕シールド。
レールが押しだすサイドの装甲が左右に広がると、装甲の中から空気を燃やす稲妻が鳴る。
ルークス星人もさるもの。
あの猛火をつらぬいて攻めてくる。
そこまで近づかれたときは、長江 朝香さんのダルク・ダンがでてくれる。
朝香さんは大学生。医者を目指してるサブリーダー。
ダルク・ダンは紫のディメンション・フルムーン型3号機。
4本足⇆2本足機構が復活した、潜水艦タイプ。
4本足のときは胴体が平べったい流線型で、先端からミサイルと魚雷をだす。
今の前半分を持ちあげた2本足のときは、先端が背中にさがって顔がでる。
お尻にX字形の舵を収納する。
深海で耐えられる装甲とパワーは、格闘戦になっても無敵だ!
それでも、弱点はある。
ルークス星人は空を飛べる。それも、マッハ3ぐらいで。
プロウォカトルで空を飛べるのは、魂呼さんのスリール・スクレットと、柳田 大和のビビッド・プレイヤーしかない。
大和は私の同級生。
八重さんの弟で、料理人を目指してる。
オレンジ色のビビッド・プレイヤーは、バーニング・エクスプローラー型4号機。
両足がピド・ファランクスとジェットを高出力化した物で、背中には手で支える鳥のような羽根がある。
だだし、速度はマッハ1程度だし、飛距離も短い。
魂呼さんのスリール・スクレットは、さらに遅い。
この銀色のバーニング・エクスプローラー型6号機は、背中の2つのローターで飛行する。
いまはローターをさらに後ろに回し、エンジンを後ろ足にしたケンタウロス形態となって地形を生かして戦っている。
スリールのローターはピドやビビッドの足を再設計した物だから、走ることができる。
足りない空戦力は、地上からのミサイルなどで補うしかない。
それができるの。ハテノ市だから。
そして戦闘は、おおむねこちらに有利に動いてる。
そしてそれは……。
「私たちは、あなたの仲間を痛めつけています。
そんな私たちを信用するんですか? 」
答えはすぐかえった。
{その戦いを止めるためです}
そのテレパシーには、ながい屈辱を与えられた怨みがあった。
{ご存知とは思いますが、私たちのルークス星ではムゲンナルとタイリナルはながい戦争を続けています。
ですが、それを良いとしていた人ばかりではありません。それがタイリナルのバノブリオさまです。
彼は本当に強い人でした}
私たちの心に、たくましい鎧武者を思わせるタイリナルの姿がうかぶ。
青空の下、おおぜいのムゲンナルが取り囲んでいる。
足元は青いクリスタルの輝きをもつ床。
いや床じゃない。微妙に高さが違う。
大きさが違う多角形の敷石に見えたのは、芝生のようなもの?
ここは公園みたい。
バノブリオの前で向きあうムゲンナルが、光をフリスビーのように投げた!
{ムゲンナルの光さえ、剣で切り裂いて無効化できるんです}
その様子も見えた。
目にも留まらぬ剣さばき、とはこのことだ!
周りからは喝さい!
そこはお祭り会場だった。
{彼の夢は、種族の融和を望む者たちに巨大な力を授けること。
そうすることで、争いを続ける2種族への抑止力となり、平和を目指していたのです}
場面がきり変わる。
クリスタルの輝きに彩られた星が、目にいっぱい飛び込んでくる。
そこを離れるのは、古い木造校舎……。
チョット待って!
「なんで宇宙船が日本の学校風なんですか」
{魂呼さんが生まれた時、日本ブームが起こったそうです。
その中の、学校の怪談というものをバノブリオさまが気に入って。
ルーティーンになりがちな学習習慣の中で理不尽さを学ぶ、良い方法だと言って。
間違いでしたか? }
まあ、着眼点は悪くないけど。
{そうですか。
とにかく仲間はそろい、私たちは修行の場を宇宙に求めました。
政府などからは非公認。寄付も求めないなかでの苦しい旅です。
それでも、私たちには必要なのだと信じていました}
恒星のすぐそばにある灼熱の星。
遠すぎる氷の星。
新しい恒星が生まれる、泳げるほど濃い星間ガス。
そこで格闘を続けるタイリナルとムゲンナルたち。
その数は20人ほど。
私が靴箱で予想したとおりの数ね。
{ある日、ある惑星で凄まじい地震が起こりました。
いくつもの都市も山も崩れ去り、津波が打ちつけました。
そしてその後には、発電所からもれた放射線が検出されたのです}
そこは、私たちの知らない星のことだった。
でも、起こったことは前に見たことがある。
{この地震を私たちは、核兵器による攻撃だと判断しました。
だって、ルークス星には地殻変動なんてなかったし、それに、}
テレパシーに乗る感情、ずっと悲しげだったけど、さらに強まった。
{近隣から、たぶんとなりの国から、地震を喜ぶ感情を探知したんです。
私たちはその近隣へ攻め込みました。
地震という自然現象があるのを知ったのは、その後です}
剣と光線が、地球とよく似たビル街をガレキに変える。
作った種族も地球人と同じくらいの大きさ。
技の高熱により、煙のように消えたビルもある。
ルークス星人の活動時間は、地球と同じ3分。
その不利を感じさせない効率的な破壊は、思わず身震いしてしまう。
{ルークス星の軍が、私たちを連れ戻しにやってきました。
バノブリオさまも、責任を感じていたのです。
逮捕を覚悟されていました。
ところが、アタケという仲間が反対したのです}
ムゲンナルが叫んでる。
俺たちがここに攻め込んだのは、この星がまぎらわしいからだ!
この国が他国に攻め込むと、だれもが思っていたからだ!
と。
{賛同する仲間もいました。
私も見捨てるわけにもいかないと思い、一緒にいました。
その結果、地域を占領することになってしまったのです。
それが悲劇の始まりでした}
占領地の隣国は、明日は我が身と戦いを挑んできた。
戦火は拡大し続けた。
{そして私たちは、自分たちに宇宙にでて行く資格がないことを、思い知ったのです}
それは、迎えにきたはずのムゲンナルとタイリナルの軍同士の戦いだった。
この戦いの原因が誰にあるか。
その調査から始まった言い争いが、種族の憎しみに火をつけた。
{最初に地震を喜ぶ心を見つけたのは、私です。
全ての責任は、私にあります。
そして、地球に流れ着いたのも。
仲間の心に憎しみを増やしたのも}
乱戦の中、逃げようと行動したのは、アリゼとムゲンナルのサファルだった。
多くの仲間が校内にいる時、宇宙に飛びだした。
でもムゲンナルのボーク、フォルサ。タイリナルのセティという3人は、間に合わなかった。
{混戦の中、エンジンが破壊されました。
それにより船の機能も低下しました。
暗く、寒くなった船内で、私たちの旅はどうやっても終われないものになりました。
そのなかで、みな次々に心を壊していったのです}
まず、バノブリオが出歩かなくなった。
いま思えば、誰かにどこかに閉じ込められたのかもしれない。
エスカペというムゲンナルは、記憶が混乱しだした。
時間の感覚がなくなり、いつまでも訓練を続けたり、食事をしてしまう。
重要なことも、それが自分の有利になることでも、忘れてしまう。
それと同時に、キズを一瞬で治す能力が発現した。
本人はそれを喜んだらしいけど。
{ご存知とは思いますが。
ムゲンナル……いえ、ルークス星人は精神によって体をつくりだします。
その精神は、とても冴え渡ったものなのです。
一度体を大きく傷つけると、そのイメージがいつまでも残り、傷ついた部分に異常な情報を送り続ける。
エスカペはそれを忘れることで、治癒能力を発揮したのではないでしょうか}
エスカペは思い上がり、支配者のようにふるまうようになった。
でも、みんな混乱するばかり。
自分たちで自分たちをおさえる能力は、なくなったみたい。
{私自身、敵前逃亡した罪、味方を置き去りにした罪で追われる身になりました。
ずっと隠れられたのは、サファルがその後も支援してくれたからです。
私を止めようとした、ようにふるまい、立場を維持することができました。
ほかにも仲の良かった人はいたけど、私を集団の敵と思う人たちによって萎縮させられ、自由は奪われていきました}
そして、私たちの知る学校の体制が整った。
{次に権力をにぎったのは、ブロフィというタイリナルです。
やったことといえば、人質をとって、船を支配すること}
あのエスカペが、泣いていた。
全身を光のロープでがんじがらめにされ、たくさんの剣を向けられて。
そこは、体育館だ。
奥には利用者さんの腰ぐらいまで高くなった舞台まである。
その舞台の下が、大きな引き出しとなって開いていた。
地球なら、お客用のイスなどを入れる場所。
なのにそこでは、不気味な極彩色の輝きが蠢いていた。
まるで巨大な口が開き、舌が獲物を捕らえようとしているみたい。
{今開いているのが、宇宙船のエネルギー炉です。
言うことを聞かない役立たずは、もう悪さできないように閉じ込めてしまえ。
ブロフィは、そう言って……}
お前ら、俺みたいな戦士がのぞみじゃなかったのかよ!
泣き叫びながら、エスカペがエネルギー炉に飲まれていく。
止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて!
そんな叫びを聞きながらも、真後ろの舞台の上でロープを引いていたのは、サファルだ。
エスカペが、最後の大あばれのつもりか、激しく叫び体を揺する!
あー! わー!!
その狂った叫びを聞いて、ブロフィがだした指示は。
あの口をふさげ!
最も近くにいたのはサファルだ。
だが元々踏ん張ってなかったみたい。
その様子は、手加減していたとしか思えない。
ただ、相手を痛めつけるのが嫌だったのか、それとも何か考えがあったのか。
とにかくすごい。こんなに寛大な人はいない!
だけどね、そのことが命取りになった。
エスカペの揺すりに、たえられなかった。
エネルギー炉に引き落とされ、飲まれていく!
{2人を飲み込んだまま、エネルギー炉は閉じられました。
誰もが、ためらうことなくて。
その様子を隠れて見いた私だって同じなのかもしれない。
いえ、同じだったんです。
目先の恐怖に萎縮して、ブロフィに都合よく動いてるから}
船に明るさと温かさがもどった。
でも、物理的にだけのこと。
アリゼへの包囲はせばまっていく。
船の航行機能は戻らない。
ただブロフィに都合のよいものをみる。
都合のよいものを報告する。
都合よく逃げる。
そんな世界が生まれてしまった。
『そして、この街にやってきた』
夜鶴はこのテレパシーに疲れたみたい。
時間的には口で話すより早いはずなのに、私もそうだよ。
『ひとつ、聴いていいか? 」
ハレハルがためらいがちに言った。
{何でしょう}
『君は何がしたいんだ。
俺たちが戦う前に、説得したいって言ってたけど、もう戦闘ははじまってるぞ。
今さら止めると言っても、信じないんじゃないか? 』
いえ。大丈夫みたい。
外にいたルークス星人が、3分の戦闘時間を終えて体育館へ入っていく。
ほうほうの体だけど。
{靖春さん、でしたね。
だからこそ、戦っていただきたいのです}
そのテレパシーにはおびえがあった。
でも、逆巻く熱風にも、背後のプラズマにも、それを封じる高電磁場負けず、アリゼさんは立っている。
{どんな形になっても、仲間は仲間です。
今までは、きずなを破壊された環境だったから、心がかたくなになってるだけです!
バノブリオさまは生きていた!
ブロフィも、元は悪い人じゃないんです!
それに、エスカペもサファルも生きてます! }
「え、そうなの」
{そうです! どうなったと思ってたんですか!! }
ごもっともです。
そう言えば、これがアリゼさんが見せた最初の怒りだね。
{いま必要なのは、今までをくつがえす力があることをしめすこと。
魂呼さんのように、この星には生きていく方法があるとしめすことです。
そこまでみんなを連れて行くために、どうか、私の仲間たちと、戦ってください! }
だけどね。
その願いは叶わなかった。
体育館へ歩きはじめた私たちを、ムゲンナルの光線が雨あられと襲った!
渡り廊下を走り、2人のタイリナルの灼熱の刃が津波のように迫る。
しかも学校の中では3分という時間制限がなくなる。
先頭を行くのは、私。
「無限炉心。爆砕シールド、展開! 」
胸の装甲を開く。
魂呼さんからもらったのは、発電技術だけじゃない。
ムゲンナルの細胞を体の外に展開する光線の技術もある。
いまは細胞を周りに固定させ、より強力なプラズマをためることができる!
耐えた!
でもこれは、私だけの防御じゃない。
体育館の横のトビラから、左にも光線が飛んでいる。
外の仲間が陽動になってくれた。
『無限炉心。機体重量ーー』
ハレハルは音声コードを入れながら、ブースターを全開にする。
私を、上から飛び越えた!
『増加ァ! 』
2人の相手を、盾と銃剣が上から襲う。
その威力はさっきの火篅とは段違い。
2人まとめて轟音ごと渡り廊下に押し倒し、めり込ませ、床に一体化させた。
『機体重量増加、解除! 』
2人の犠牲者の上にしゃがみ込んだ体勢から、勢いよく走りだす。
『どうだ! お前らの6倍の体重で放たれた、篦深!! 』
ノブカも、プロウォカトル流銃剣道の技。
無限炉心は、私たちにムゲンナルにできることをさせてくれる。
ただし、稼働時間は大幅に減る。
いつもならこういうフォワード任務は装甲の厚いキャナル・コンケッタのはずだけど。
今日はアリゼさんのエスコートがあるから仕方がない。
ハレハルの好意だ。
私は速度をあげて、爆砕シールドで体育館の扉を吹き飛ばした。
そのあとは、正直に言って特筆すべきことはない。
体育館で戦っていたルークス星人は、たった3人。
タイリナルが1人。
この人は私には反応できず、続くピド・ファランクスが踏み込んだ時、右側から切り込んできた。
ピドの盾は重すぎ、大きすぎるしサブアームで固定されている。
だからおおいにくい右半身は弱点になる。
しかしピドの背中には、予備の武器として短い(と言っても20メートル)砲を背負っている。
しかも背負っている間は砲塔におさめられ、手を使わずに撃てる。
襲撃者はその牽制で動けなくなり、後から来たキャナルに張り倒された。
残りはムゲンナルが2人。
私の目の前に、畳があった。
机に立てかけた、小さなバリケード。
その向こうから光線がくる。
私はシールドを畳に押し付けるようにしながら、左へ回り込んだ。
中ではムゲンナルが1人、イスに座っていた。
なんてこと!
それは私が校舎で最初に痛めつけた人だった。
シールドを解除して、椅子から引きずり下ろす。
床に押し倒して、無限炉心も使って出力を上げ、動けなくした。
残る1人は、現在の船の権力者。ブロフィ。
彼が最も悲惨だった。
1人で体育館の左側を撃っていたのが彼だ。
だけどね、完全に撃ち負けて、弾痕だらけの床に叩きつけられた。
さらに、屋根をつきやぶられ、瓦や木など、ガレキにも降られた。
破ったのはスリール・スクレットとビビッド・プレイヤー。
銀とオレンジのロボットに怒鳴りつけられ、事件は終わった。
それでもブロフィは往生際が悪いね。
オレはチャンピオンだぞ! と怒鳴りながら、スリールとビビッドに引きずられていった。
無限炉心2つもあれば、ヘロヘロのムゲンナルの光線なんて、ストローで飲むジュースみたいに吸収できる。
今まで、大勢の人々のつながりを潰してきた、罰だ!
最後のタイリナルも、その闘争意識は素晴らしい。
ただし、コンピュータによるシミュレーションとでも思ったのか。
キャナルにつかまれて連れ去られる間、プログラム終了。プログラム終了。とつぶやき続けていた。
そうこうする内にウイークエンダーの稼働限界がきた。
こうなれば、あとは機体の関節を固定する。
相手を傷つけたり、窒息させないだけの余裕もあった。
外から複数のロボットの足音がした。
ぶち抜かれた体育館の外に立つ青い影。
ブロッサム・ニンジャが、何か自分と同じくらい大きな黒いモノを抱えてやってきた。
その黒いモノも人型だ。
ブロッサムは両手の大砲を脇の下に通して支えている。
タイリナル?
でも、今日までタイリナルが地球に来たことはない。
まさか!
『バノブリオさん、お入りください』
ブロッサムの、しのぶの声に耳が変になったかと思った!
バノブリオといえば、巨漢、力が強い、などの英雄のイメージだった。
ところが、目の前にいるのはぼんやりと立つ、ブロッサムに支えられてゆっくり近づいてくる太った影だ。
思わず私も支えようとした。
だけど、今はまだ指一本動かせない。
カメラと通信、あと外部スピーカーは使える。
つまり、でっかいカカシだ。
『あなたがバノブリオさん?
俺は大谷 靖春と言います』
突然、外部スピーカー越しの声があがった。
ピド・ファランクスが、急いで戻って来ていた。
『落人 魂呼の名前に、聞き憶えはありますか? 』
無礼討ちされたらどうすんの?!
{……ああ、ある}
……拍子抜けするほど、ゆっくりした返事。
地震を核攻撃と間違えて以来、仲間との生活からずっと遠ざかっていた。
それが、ここまで生きる力を無くすものなの?
まるで抜け殻だ。
その抜け殻にたいし、ハレハルは聞き続ける。
きっと、それが目的でこの作戦に参加したんだ。
『魂呼さんは、これまで何度もルークス星へ連絡してきました。
でも、一度も返事が来たことはありません。
その理由はわかりますか? 』
英雄は頭をうなだれながら、こたえる。
{ああ、わかる。
落人 魂呼はその誕生の際、技術的ミスで脳を一部しか作れなかった。
それに脳医療のデバイスを大量に取り付けたところで、魂が宿るとは思えないからだ}
こちらも、無礼討ちなど考えているとは思えない。
そもそも、瞳にも体の動きにも、心の動きを映す手がかりが何もない。
一切の感情を手放した。そうとしか思えない。
ピドからの声が途切れた。
心配はしてない。
あいつがいきなり攻撃して、混乱を起こすやつじゃないからだ。
今は、予想どうりの答えを聞いて、コクピットで悔しさに身をよじるか、のたうち周っているにちがいない。
私も、痛いよ。ハレハル……。
{誰か助けて! }
虚無感に満ちた世界に、悲痛な願いがこだました。
体育館、舞台の前。
そこに見知らぬムゲンナルが立っていた。
そんな人は、アリゼさんしかありえない。
空を飛んできて、舞台下の引き出しにつかみかかっている!
でも、開けられない。
{サファルとエスカペは無事なの!? }
動けるロボットたち、3機のディメンション・フルムーン型と4機のバーニング・エクスプローラー型がまわりを調べはじめた。
手伝えないのが歯がゆい。
バノブリオはクズだらけの床に、弱々しく座りこんでいた。
それでも、フラフラと立ち上がる。
そしてわずかながら威厳を取り戻し、一団に加わった。
引き出しは結局、ディメンションが白い手刀で切り裂いた。
中からは、テレパシーで見せられた不気味にうごめく光。
それを、みんなでかき回して探す。
だけど、ダルク・ダンが引きだしたのは、ムゲンナルの胸ほどのかたまり、1つだけ?
{……エスカペ? }
アリゼさんが気付いた。
私も恐ろしいことに気づいた。
2人は、発電のために体を溶かされてしまったんだ!
すると、不思議なことが起こった。
エスカペと呼ばれた光る固まりが、上下に開いてゆく。
まるで口のように。
{……サファル? }
中身を見てアリゼさんはそう言ったけど、ひどく困惑していた。
『まさか、喰われた!? 』
おびえた声をあげたのは、ドライ・トレビュシェの八重さんだ。だけど。
『いえ、違う! 』
ダルクの朝香さんに止められた。
『エスカペは、サファルをかばったのよ』
記憶が混乱して、乱暴者になったはずの人物が、信じられない献身を見せたって事なの?
サファルの光は、アリゼさんの手にわたった。
でも、何の慰めになるの?
傷は再生すると思う。
でもそのあとには、ルークス星での裁きが待っている。
どんな刑罰になるのか。
私にはわからない。そのことが怖い……!
{ウッううう……}
それはアリゼさんも同じこと。
泣き声が止まらない。
でも、その顔が輝きだした。
サファルが輝いている。
まるでアリゼさんが流す涙を拭う手ように、その輝きは見えた。
アリゼさんの泣き声が、止まった。
その時、新たな報告がきた。
さきに地震のあった惑星で捕らえられた3人のことだ。
懲役刑になっていた。
別々の刑務所に入れられ、連絡はできないみたい。
{私、決めました}
だけど、今はそのことは言わないでおこうよ。
みんな。
{支えます。一生! }
実際にはできないか、とてつもない苦労を伴うと思う。
だけど今は、アリゼさんには、今の気持ちをしっかり覚えて欲しいんだ。
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