俺が落としたのは、あるいは―――。

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次の日から毎日俺は、ますみちゃんと偶然会うようになった。勿論、偶然である。そう、偶然だ。 ますみちゃんの通っている高校の近くに俺が「たまたま」居合わせていて、それを見つけたますみちゃんが俺と一緒に下校する。 二日目の時点ではお互いの自己紹介で精一杯だった。彼女は俺が「信」と名乗ると、顔を赤らめてかっこいい名前ですねと言ってくれた。 そうして二週間くらいが経った頃、俺はすっかりますみちゃんと仲良くなっていた。 「信さん、いつも迎えに来てくれてありがとう」 「迎えに?えへへ…偶然じゃないって気づいてたんだ」 そう、俺とますみちゃんが毎日会うのは偶然ではない!俺が律儀に彼女を迎えに来てあげているからなのだ! 俺ってば優しい。 「そういえば、信さんが落とした財布にスズランの花の模様をかたどったお守りがついてたね」 「あれ、スズランだってわかってくれたんだ、嬉しいなぁ。誰もわかってくれる人いなかったからさぁ!」 「スズランの花言葉って確か『幸福の再来』とか『純粋』だったよね」 「ますみちゃんにぴったりじゃないか。真実の真、純粋の純。良い名前だよ本当に」 俺がにへらっと笑うと、ますみちゃんも笑う。とても幸せな日々だった。幸せ過ぎて、次の日が命日なのではないかと疑ってしまうほどだ。 「俺バツ1なんだよね。一人目の妻が俺より背が高くて、高圧的でさ。だからますみちゃんくらいの身長が良い」 「本当?私の身長でいいの?良かった、低いかなって気にしてたの」 そんなことないよ~と俺はフォローを入れる。 ここ二週間はずっとこの調子で、終始俺はでれでれとしている。更にはますみちゃんを手放すまいと、頻繁にプレゼントをあげている。 「あ、今日もプレゼントだよ。ほら見て!ますみちゃんが欲しいって言ってたアイドルのBlue-ray!」 「嬉しい!いいの?」 俺は満面の笑みで頷いた。ますみちゃんは嬉しそうにBlue-rayを抱き締める。俺はすごく、気持ちの良い気分になる。 最近はいつも女も金もうまくいってなくてイライラしていたのにますみちゃんといると心が和む。こんな女が嫁で、「行ってきます」と俺がキスをしてやると「いってらっしゃい」と頬を赤らめる…ああ!なんて美しい夫婦像だろう! 「ますみちゃんは誰か、学校で好きな人いるの?」 俺の少し踏み込んだ質問に、ますみちゃんは少したじろいでから答えた。 「私は、年上好きだから学校の子じゃダメで…」 なんと、年上好きか!そりゃあ俺の相手をしてくれるわけだ!もしかしたら俺のことを好きでいてくれているのか?これは、好きという告白だろう?! 「信さんみたいな人が好きだよ」 「ブフォオッ!!」 つい鼻血が出そうになってしまった。好きだって、好きだって?言われたことが無かった。 一人目の妻も、借金返済を当てにして俺から告白したデキ婚だし、二人目の妻は少し可愛げがあったけれど、俺を好きだなんて言ってくれたことが無かった。 「うふふ、信さん面白いね」 ますみちゃんは俺のことを何でもわかってくれたし、何でも受け入れてくれた。
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